贈賄被疑事件において勾留請求を却下した原々裁判を取り消して勾留を認めた原決定に刑訴法60条1項、426条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
刑訴法60条1項、刑訴法411条1号、刑訴法426条、刑訴法434条
判旨
勾留の必要性の判断において、第1審が罪証隠滅の現実的可能性を具体的に検討し、一定の合理性のある理由でこれを否定した場合、抗告審が第1審の評価の不合理性を実質的に示さずにこれを取り消すことは許されない。罪証隠滅のおそれは、客観的証拠の収集状況や関係者との人的関係の有無等を総合し、現実的可能性の程度を基礎付ける事情を具体的に検討して判断すべきである。
問題の所在(論点)
勾留の必要性の有無を判断するにあたり、罪証隠滅の現実的可能性をどのように評価すべきか。また、第1審の判断に合理性が認められる場合に、抗告審がこれを覆すための要件が問題となる。
規範
勾留の必要性(刑事訴訟法60条1項柱書)における罪証隠滅のおそれ(同項2号)の判断は、事案の性質、証拠構造、捜査の進捗状況、被疑者の属性や関係者との人的関係等を総合し、罪証隠滅の「現実的可能性の程度」を具体的に検討して行われるべきである。抗告審が第1審の勾留請求却下決定を取り消すには、第1審が依拠した具体的事実に対する評価が不合理であることを、実質的な理由を挙げて示す必要がある。
重要事実
国立大学病院医師に対する贈賄容疑で元営業所長が逮捕・勾留請求された事案。第1審は、客観的証拠の収集や事情聴取が進んでいること、被疑者が数ヶ月間任意の取調べに応じていること、既に退職しており会社関係者との強い関係がうかがわれないこと等を理由に、罪証隠滅の現実的可能性が高くないとして勾留請求を却下した。これに対し準抗告審は、対向犯であることや証拠構造の重要性を指摘し、罪証隠滅のおそれが高度であるとして勾留を認めたが、第1審の評価を覆す具体的・実質的な理由は示さなかった。
事件番号: 平成27(し)597 / 裁判年月日: 平成27年10月22日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】勾留の必要性の判断において、捜査の遅延により公訴時効の完成が迫っていることは、それ自体で勾留の必要性を大きく高める事情とはいえず、罪証隠滅や逃亡の現実的可能性が低い場合には勾留は認められない。 第1 事案の概要:成年後見人であった被疑者が業務上横領を行った疑いで勾留請求された事案。犯行から約7年、…
あてはめ
本件では、客観的証拠の収集が相当程度進み、被疑者が既に退職して会社関係者との人的関係が希薄化しているという事情が認められる。これらは罪証隠滅の現実的可能性を低める事情であり、これらを具体的に検討して勾留の必要性を否定した第1審の判断には一定の合理性がある。準抗告審は、第1審とほぼ同一の事情を指摘するのみで、第1審の評価が不合理であるとする理由を実質的に示しておらず、第1審と異なる判断をした正当な理由があるとはいえない。
結論
勾留の必要性を否定した第1審の判断を取り消した準抗告審の決定には、刑訴法60条1項、426条の解釈適用を誤った違法がある。準抗告審の決定を取り消し、本件準抗告を棄却すべきである。
実務上の射程
勾留の必要性、特に罪証隠滅のおそれを肯定するハードルを明確にした判例である。答案上では、単に「対向犯だから」「証拠構造上重要だから」という一般的抽象的な懸念のみでは足りず、捜査の進捗(客観的証拠の収集状況)や人的関係の断絶といった「現実的可能性を基礎付ける具体的事実」を詳細に拾うべきである。特に第1審の判断に合理性がある場合の抗告審の審査密度を示す際にも活用できる。
事件番号: 平成26(し)578 / 裁判年月日: 平成26年11月17日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】勾留の必要性の判断において、罪証隠滅の現実的可能性の程度を検討するにあたり、被害者に接触する可能性が高いことを示す具体的な事情がない場合には、勾留の必要性は否定されるべきである。 第1 事案の概要:被疑者は通勤時間帯の地下鉄車内で女子中学生の太腿等を触ったとして迷惑防止条例違反の容疑で逮捕された。…
事件番号: 昭和36(し)54 / 裁判年月日: 昭和37年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法60条1項2号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」とは、単にそのおそれがないとはいえない状態を指すのではなく、諸般の事情に照らして罪証を隠滅する事態を生ずる蓋然性があると予測される場合をいう。 第1 事案の概要:被疑者ら9名は地方公務員法違反の容疑をかけられ、岩手県教員…
事件番号: 昭和43(し)53 / 裁判年月日: 昭和44年2月17日 / 結論: 棄却
勾留請求却下の裁判に対する検察官の準抗告に対し、準抗告裁判所が、単に、被疑者につき刑訴法六〇条所定の要件の存否を判断して右裁判を取消し、かつ勾留の裁判をしたものであるときは、勾留請求却下後における被疑者の身柄拘束の有無および適否は、ただちに原決定および勾留の裁判の効力に影響を及ぼすものとはいえない。
事件番号: 平成7(し)40 / 裁判年月日: 平成7年4月12日 / 結論: 棄却
一 勾留に関する処分を行う裁判官は職権により被疑者又は被告人の勾留場所を変更する旨の移監命令を発することができる。 二 裁判官に移監命令の職権発動を促す趣旨でされた勾留取消し請求を却下した裁判に対する不服申立ては許されない。