判旨
刑事訴訟法60条1項2号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」とは、単にそのおそれがないとはいえない状態を指すのではなく、諸般の事情に照らして罪証を隠滅する事態を生ずる蓋然性があると予測される場合をいう。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法60条1項2号にいう、被告人(被疑者)が「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」の判断基準が問題となる。
規範
「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(刑訴法60条1項2号)の存否は、検察官から提供された資料を基礎として、そこに示された諸般の事情の下で、罪証を隠滅する事態を生ずる蓋然性があると予測されるか否かによって判断すべきである。単に罪証隠滅のおそれがないとはいえないというだけでは足りない。
重要事実
被疑者ら9名は地方公務員法違反の容疑をかけられ、岩手県教員組合の本部役員という地位にあった。共謀の成立事情等についてさらなる捜査を要する段階において、被疑者らは捜査機関に対し特定の供述態度を示していた。原決定は、罪証隠滅の相当な理由が認められないとして勾留請求を却下したが、これに対し特別抗告がなされた事案である。
あてはめ
本件では、(1)事案の性質・態様、(2)被疑者らが教職員組合本部役員であり強い統制力を有するという地位、(3)共謀成立事情について未解明な点があり捜査の余地があること、(4)被疑者らの供述態度等の事情が認められる。これらの事情を総合すれば、釈放した場合に他の共謀者との通謀や参考人への圧迫等により、罪証を隠滅する事態を生ずる蓋然性があると予測される。したがって、罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由があるといえる。
結論
本件被疑者らについては、罪証隠滅の蓋然性が予測されるため、刑事訴訟法60条1項2号の要件を充足する。なお、本決定の多数意見は特別抗告を棄却している(上記判断は池田裁判官の少数意見に基づくもの)。
事件番号: 令和7(し)1043 / 裁判年月日: 令和7年11月27日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】勾留の必要性の判断において、第1審が罪証隠滅の現実的可能性を具体的に検討し、一定の合理性のある理由でこれを否定した場合、抗告審が第1審の評価の不合理性を実質的に示さずにこれを取り消すことは許されない。罪証隠滅のおそれは、客観的証拠の収集状況や関係者との人的関係の有無等を総合し、現実的可能性の程度を…
実務上の射程
本判断(池田意見)は実務上、勾留の理由(罪証隠滅のおそれ)を検討する際のリーディング・ケースとして機能している。答案では「隠滅の対象」「隠滅の態様」「隠滅の主観的・客観的可能性」という3要素を、本基準である「蓋然性の予測」に繋げて具体的事実をあてはめるのが一般的である。
事件番号: 昭和36(し)62 / 裁判年月日: 昭和36年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特別抗告の理由として主張される判例違反について、引用された判例が事案を異にする場合には、適法な抗告理由には当たらない。 第1 事案の概要:本件は、特別抗告人が高等裁判所の判決に対して特別抗告を申し立てた事案である。抗告人は、原判決が複数の高等裁判所の判例に違反している旨を主張して抗告の理由としたが…
事件番号: 昭和36(し)55 / 裁判年月日: 昭和36年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件は、特別抗告の理由として主張された判例違反が、事案を異にする判例の引用や原決定の事実認定に対する非難にすぎない場合には、適法な理由にならないと判断したものである。 第1 事案の概要:特別抗告人が、原決定に対して判例違反を理由に特別抗告を申し立てた事案。抗告人は特定の判例を引用して自説の正当性を…
事件番号: 昭和36(し)56 / 裁判年月日: 昭和36年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特別抗告において引用された高等裁判所の判例が、事案を異にし本件に適切でない場合には、憲法違反や判例違反の主張としての具体性を欠くため、特別抗告の適法な理由とはならない。 第1 事案の概要:抗告人は、原決定に対し、高等裁判所の判例に違反する旨を主張して特別抗告を申し立てた。しかし、抗告人が引用した各…
事件番号: 昭和36(し)61 / 裁判年月日: 昭和36年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が決定をもってした判断に対し、最高裁判所への特別抗告がなされた場合において、引用された判例が本件と事案を異にし適切でないときは、判例違反の主張は適法な抗告理由とならない。 第1 事案の概要:抗告人は、原決定が判例に違反するとして最高裁判所に対し特別抗告を申し立てた。しかし、抗告人が引用した判…