迷惑行為防止条例違反被疑事件において勾留請求を却下した原々裁判を取り消して勾留を認めた原決定に刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
刑訴法60条1項,刑訴法411条1号,刑訴法426条,刑訴法434条
判旨
勾留の必要性の判断において、罪証隠滅の現実的可能性の程度を検討するにあたり、被害者に接触する可能性が高いことを示す具体的な事情がない場合には、勾留の必要性は否定されるべきである。
問題の所在(論点)
刑訴法60条1項柱書の「勾留の必要性」の判断において、被害者への接触による罪証隠滅の疑いがある場合、どの程度の具体的事情が必要か。
規範
勾留の必要性(刑訴法60条1項柱書)の有無を判断するにあたっては、被疑者の属性(前科前歴、定職の有無等)や逃亡のおそれの程度に加え、罪証隠滅の現実的可能性の程度を考慮すべきである。特に、被害者への働きかけによる罪証隠滅の疑いを理由とする場合、被害者と接触する可能性が高いことを示す具体的な事情の有無を精査し、その可能性が低いと判断される場合には、勾留を認めるべきではない。
重要事実
被疑者は通勤時間帯の地下鉄車内で女子中学生の太腿等を触ったとして迷惑防止条例違反の容疑で逮捕された。被疑者は前科前歴のない会社員で逃亡のおそれは否定されていたが、被疑者と被害者の供述が対立していた。原々審は勾留請求を却下したが、原審(準抗告審)は被害者への働きかけの可能性を理由に勾留の必要性を認めた。しかし、被疑者が今後被害者と接触する可能性が高いことを示す具体的な事情(住居や行動範囲の近接性等)は特に認められていなかった。
あてはめ
被疑者は前科前歴のない会社員であり、逃亡のおそれは否定されているため、勾留の必要性は罪証隠滅の現実的可能性の程度に依存する。本件は朝の通勤通学時間帯の地下鉄車内という不特定多数が利用する場所での犯行であり、被疑者が特定の被害者と今後接触する可能性が高いことを示す具体的な事情は認められない。したがって、被害者への現実的な働きかけの可能性は低く、原審がその可能性の程度について具体的な理由を示さずに勾留を認めたのは、勾留の必要性の解釈適用を誤ったものである。
事件番号: 令和7(し)1043 / 裁判年月日: 令和7年11月27日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】勾留の必要性の判断において、第1審が罪証隠滅の現実的可能性を具体的に検討し、一定の合理性のある理由でこれを否定した場合、抗告審が第1審の評価の不合理性を実質的に示さずにこれを取り消すことは許されない。罪証隠滅のおそれは、客観的証拠の収集状況や関係者との人的関係の有無等を総合し、現実的可能性の程度を…
結論
勾留の必要性は認められず、勾留請求を却下した原々審の判断は正当である。原決定を取り消し、本件準抗告を棄却する。
実務上の射程
痴漢事件等の面識のない者同士の事案において、単に否認しているというだけで「働きかけによる罪証隠滅のおそれ」を認定し、勾留の必要性を肯定することに制動をかける実務上の意義がある。弁護人としては、被疑者の属性に加え、被害者との非接触性(生活圏の乖離等)を具体的に主張する際の有力な根拠となる。
事件番号: 平成27(し)597 / 裁判年月日: 平成27年10月22日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】勾留の必要性の判断において、捜査の遅延により公訴時効の完成が迫っていることは、それ自体で勾留の必要性を大きく高める事情とはいえず、罪証隠滅や逃亡の現実的可能性が低い場合には勾留は認められない。 第1 事案の概要:成年後見人であった被疑者が業務上横領を行った疑いで勾留請求された事案。犯行から約7年、…
事件番号: 昭和43(し)53 / 裁判年月日: 昭和44年2月17日 / 結論: 棄却
勾留請求却下の裁判に対する検察官の準抗告に対し、準抗告裁判所が、単に、被疑者につき刑訴法六〇条所定の要件の存否を判断して右裁判を取消し、かつ勾留の裁判をしたものであるときは、勾留請求却下後における被疑者の身柄拘束の有無および適否は、ただちに原決定および勾留の裁判の効力に影響を及ぼすものとはいえない。
事件番号: 令和6(し)262 / 裁判年月日: 令和6年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留の際の被疑事件告知において、個人特定事項を秘匿する方法(刑訴法207条の2第2項)によったとしても、他の事項から事件を特定可能であれば、憲法34条に違反しない。 第1 事案の概要:被疑者を勾留するに当たり、裁判官が刑訴法207条の2第2項の規定を適用し、被害者等の個人特定事項を伏せた状態で被疑…
事件番号: 昭和36(し)54 / 裁判年月日: 昭和37年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法60条1項2号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」とは、単にそのおそれがないとはいえない状態を指すのではなく、諸般の事情に照らして罪証を隠滅する事態を生ずる蓋然性があると予測される場合をいう。 第1 事案の概要:被疑者ら9名は地方公務員法違反の容疑をかけられ、岩手県教員…