請求異議の訴えを本案とする民事執行法36条1項の強制執行の停止の申立てがされ、強制執行の停止を命ずる裁判がされた後、当該訴えについて請求を棄却する判決が確定し、当該強制執行の停止を命ずる裁判が取り消された場合において、当該申立てをした者に主張した異議の事由が事実上又は法律上の根拠を欠くことについて故意又は過失があるときは、当該申立てをした者は、債権者が強制執行の停止によって被った損害を賠償する義務を負う。
請求異議の訴えについて請求を棄却する判決が確定し、当該訴えを本案とする強制執行の停止を命ずる裁判が取り消された場合において、当該裁判に係る申立てをした者が、債権者が強制執行の停止によって被った損害を賠償する義務を負うか
民法709条、民事執行法36条1項
判旨
請求異議の訴えに基づく強制執行停止の申立てが、事実上又は法律上の根拠を欠く異議の事由に基づきなされ、後に請求棄却判決が確定した場合、申立人は債権者の損害を賠償する義務を負い、その過失は原則として推定される。
問題の所在(論点)
不当な強制執行停止の申立てが不法行為を構成するための要件、特に申立人の「過失」の有無を判断する際の基準および立証責任の所在が問題となる。
規範
請求異議の訴えを本案とする民事執行法36条1項の強制執行停止の申立てがされ、停止裁判後に請求棄却判決が確定した際、異議の事由に事実上・法律上の根拠がないことにつき故意又は過失があるときは、不法行為(民法709条)上の賠償義務を負う。債務名義による利益を侵害される債権者との公平の観点から、停止裁判が取り消された場合、申立人には注意義務を尽くさなかった過失が推定される。ただし、債務名義の種類や事由の内容から申立てに相当な事由があったと認められるときは、この限りではない。
重要事実
上告人は被上告人に対し不動産明渡訴訟を提起し、勝訴判決を得た。被上告人は同判決による強制執行の不許を求め請求異議の訴えを提起するとともに、同法36条1項に基づき執行停止の申立てを行い、停止決定を得た。しかし、被上告人が主張した異議事由(留置権、権利濫用)は全て事実審の口頭弁論終結前の事情であり、遮断効により認められないとして請求棄却判決が確定した。上告人は、不当な執行停止により損害を被ったとして不法行為に基づく損害賠償を請求した。
あてはめ
被上告人は、前訴の口頭弁論終結前の事情を異議事由として主張しており、これは民事執行法35条2項により法律上の根拠を欠くことが明白である。強制執行の停止を申し立てる者は、債権者の利益を不当に侵害しないよう、異議事由の根拠について調査・検討する注意義務を負う。本件では、請求棄却判決が確定し停止決定が取り消されているため、被上告人には過失が推定される。原審は「著しく相当性を欠くとき」に限るとしたが、債権者の保護と手続の簡略性に照らせば、過失の推定を認めるべきである。
結論
原審の判断には法令の違反があるため、破棄し、被上告人らの過失の有無(過失の推定を覆す相当な事由の有無)を審理させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
訴えの提起が不法行為となる基準(著しく相当性を欠く場合)とは異なり、執行停止については債権者の実体法上の利益を直接侵害することから、より厳格な注意義務を課し、過失の推定を認めた点に意義がある。答案では、保全処分の不当執行に関する過失推定の理屈を類推的に論じる際の強力な根拠となる。
事件番号: 昭和33(オ)377 / 裁判年月日: 昭和37年3月22日 / 結論: 棄却
執行吏が過失により有体動産の差押につき作成すべき調書に差押物の評価額を記載しなかつたことによつて債務者に損害を生じた場合には国家賠償の責任が成立する。