債権者が債務者に対する強制執行として第三者の店舗において第三者の所有占有にかかる営業用動産を差押えた場合でも、(イ)右第三者は債務者から営業譲渡を受けたものであつて、同一店舗で同一商号を用い右商号のみを表示する従前と同一の看板を掲げ従前の従業員数名を使用して営業を続け、右店舗には自ら居住せず自己の標札も掲げていない等の事情のため、局外者において右店舗が既に債務者の営業所または住所でなく前記動産もまた債務者の所有占有に属しないことを知り得ない状態にあり、(ロ)その後、債務者および第三者から右動産は第三者の所有なる旨の申出を受けた債権者において、競売期日の延期を申請すると共に若しそれが真実なら異議の申立をするよう注意したに拘らず、第三者において所有を証するに足りる証拠物件の呈示も異議の申立もしないので、遂に右動産は競落されるに至つた、という事実関係のもとでは、債権者には不法行為成立の要件たる過失はないと解するのが相当である。
第三者の所有占有する動産に対し強制執行をした債権者に不法行為の要件たる過失がないとされた事例。
民法709条,民訴法566条,民訴法567条
判旨
執行債権者が強制執行手続を進めたことにつき、その手続の基礎となった債務名義等の事情に照らし、執行債権者に過失が認められない場合には、不法行為責任(民法709条)は成立しない。
問題の所在(論点)
不当な強制執行による損害について、民法709条に基づく不法行為責任が成立するためには、執行債権者に過失が必要か。また、本件において執行債権者に過失が認められるか。
規範
強制執行の結果、後にその執行の基礎となった債務名義が覆された場合であっても、執行債権者が執行手続を申し立て、あるいはこれを続行したことについて、当時の諸事情を総合して執行債権者に注意義務違反(過失)が認められない限り、不法行為上の賠償責任を負うものではない。
重要事実
上告人(債務者)に対し、被上告人(執行債権者)が強制執行を実施したが、後にその執行の根拠となった法律関係や債務名義に関して争いが生じた。原審において、執行債権者である被上告人が執行手続を行ったこと自体について過失があるかどうかが争点となったが、原審は諸般の事情から被上告人に過失は認められないと判断した。
あてはめ
本件では、原審が確定した事実関係(詳細は判決文からは不明だが、執行に至る経緯や債務名義の有効性を信じるに足りる客観的事由があったと推認される)に基づけば、被上告人が強制執行手続を追行したことにつき注意義務を怠ったとはいえない。したがって、不法行為の成立要件である過失が欠如しているといえる。
結論
被上告人に過失を認め得ないとした原審の判断は相当であり、不法行為責任は成立しない。
実務上の射程
不当な執行による損害賠償請求において、無過失責任を否定し過失責任主義を採ることを確認したもの。答案上は、執行後に債務名義が失効したケースでの賠償責任を論じる際、単に「結果的に不当であった」ことのみならず、「執行時点での過失」が必要であると論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和39(オ)532 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員の職務執行上の行為について、法令の解釈に複数の有力な説があり実務も分かれている状況下で、当該公務員が特定の説に従い誠実に行動した場合には、国家賠償法1条1項の「過失」を否定できる。 第1 事案の概要:債務者が仮処分命令の条件(現状維持)に違反して建物の現状を変更したため、執行吏代理が債務者を…