執行吏がいわゆる点検執行による排除行為をしたことにつき国が損害賠償責任を負わないとされた事例
判旨
公務員の職務執行上の行為について、法令の解釈に複数の有力な説があり実務も分かれている状況下で、当該公務員が特定の説に従い誠実に行動した場合には、国家賠償法1条1項の「過失」を否定できる。
問題の所在(論点)
法令の解釈が分かれ、実務上も統一されていない事項について、公務員がいずれか一方の説に従って職務を遂行した場合に、国家賠償法上の「過失」が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項の「過失」の有無は、公務員が職務上尽くすべき注意義務を尽くしたか否かによって判断される。法令の解釈、適用について、相対立する見解があり、かつ実務上の取扱いも分かれている状況下で、公務員がいずれか一方の見解に従い、従来の慣行等に基づいて職務を遂行した場合には、特段の事情がない限り、直ちにその行為に過失があったということはできない。
重要事実
債務者が仮処分命令の条件(現状維持)に違反して建物の現状を変更したため、執行吏代理が債務者を退去させ建物を直接保管する措置を講じた。当時、このような執行吏の権限の有無については学説が対立し、実務上の取扱いも分かれていたが、当該裁判所管内では権限を肯定する説に従った実務が行われていた。債務者(上告人)は、執行吏代理の行為に違法・過失があるとして国家賠償を請求した。
あてはめ
本件において、執行吏代理が講じた措置については、当時その権限の有無に関して相対立する見解が存在し、実務も区々に分かれていた。しかし、当該執行吏代理が属する東京地方裁判所管内においては、従来から権限を肯定する説に従った取扱いがなされていた。執行吏代理はこの状況下で実務慣行に従い行動したものであるから、後にその権限の存否について法的な議論の余地があるとしても、その職務執行において尽くすべき注意義務を怠ったものとは認められない。
結論
執行吏代理の行為には過失が認められず、国家賠償請求は棄却される。
実務上の射程
法令解釈が未確立な分野における公務員の判断について、過失の成立を限定する射程を持つ。答案上は、職務行為の違法性のみならず、過失の有無を検討する際、当時の実務水準や解釈の困難性を考慮する要素として引用できる。
事件番号: 昭和39(オ)1252 / 裁判年月日: 昭和41年10月21日 / 結論: 棄却
(省略)