判旨
公務員が事務処理において第三者の権利を侵害したとしても、当時の証拠資料(公正証書等)に基づき所有権の帰属を信じたことに相当な理由がある場合には、過失を否定し、国家賠償責任を免れる。
問題の所在(論点)
金沢市の事務担当者が、上告人への照会を行わず公正証書に基づき所有権の帰属を判断した点について、国家賠償法1条1項の過失が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項の「過失」とは、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を怠ることを指す。具体的には、事務担当者が当時の資料等に照らして判断の根拠となる事実を信じたことに相当な理由があるときは、特段の事情がない限り、注意義務を尽くしたものとして過失は否定される。
重要事実
上告人は、金沢市の事務担当者が本件家屋の所有権を誤認し、真の所有者である上告人ではなく第三者(D)に補償金を支払った等の行為により所有権が侵害されたとして、国家賠償請求を提起した。事務担当者は、Dが上告人から家屋を買い受けた旨が記載された公正証書(売買契約書)に基づき、Dが所有権を取得したと信じて事務処理を行った。
あてはめ
金沢市の事務担当者が上告人に直接照会しなかったとしても、本件公正証書という公的な証明力の高い書類が存在していた。当該公正証書の内容と原審認定の事実関係を対照すれば、家屋がDに売却されたと信じたことには相当な理由がある。売買成立から補償金支払まで期間が経過し、代金額の記載に疑問の余地があったとしても、直ちに注意義務違反を基礎づけるものではない。また、威嚇や偽罔といった不当な行為も認められない。
結論
事務担当者に過失があったとは認められず、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は棄却される。
実務上の射程
行政庁の事実誤認に基づく処分等について過失を争う際の基準となる。特に、公正証書等の客観的資料が存在する場合、公務員にさらなる調査・照会義務がどこまで課されるかという判断の目安(信じたことの相当性)を示す事例である。
事件番号: 昭和39(オ)532 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員の職務執行上の行為について、法令の解釈に複数の有力な説があり実務も分かれている状況下で、当該公務員が特定の説に従い誠実に行動した場合には、国家賠償法1条1項の「過失」を否定できる。 第1 事案の概要:債務者が仮処分命令の条件(現状維持)に違反して建物の現状を変更したため、執行吏代理が債務者を…