農地委員の農地買収計画樹立に関する職務の執行につき故意過失がないとされた事例。
判旨
行政庁の委員による判断が、過去の調停の存在にもかかわらず事実関係に基づき合理的な解釈として行われたものであるならば、その職務執行につき故意または過失があったとは認められない。
問題の所在(論点)
農地委員会が過去に成立した調停の内容と異なる法律関係の存続を前提として判断を下した場合において、当該委員に国家賠償法1条1項の「過失」が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項の「過失」とは、公務員がその職務上通常尽くすべき注意義務を怠ることを指す。行政処分の前提となる法律関係の存否につき、公的委員会が客観的に相当な資料に基づき、かつ合理的な法的判断の範囲内で結論を得た場合には、結果的にその判断が事後的に見て誤りであったとしても、直ちに職務上の過失があるとは認められない。
重要事実
上告人と訴外Dの間には、本件農地の小作関係について昭和21年4月15日に成立した調停が存在していた。しかし、札幌市農地委員会および北海道農地委員会は、右調停が存在するにもかかわらず、上告人とD間の小作関係がなお存続しているものと判断し、これに基づく行政上の措置等を行った。上告人は、両委員会の判断が誤りであり、委員の職務執行に故意または過失があったとして国家賠償等を求めた。
あてはめ
本件において、農地委員会が調停の存在を認識しつつもなお小作関係が存続すると解したことは、当時の事実関係や証拠関係に照らせば「やむを得ないところ」であった。すなわち、委員会は調停を無視したのではなく、当時の具体的な状況に基づき合理的な解釈を試みたものと評価できる。したがって、判断の前提となる事実認定や証拠の評価に不合理な点は認められず、職務上の注意義務に違反する故意または過失があったとはいえない。
結論
農地委員会の委員に故意過失があったとはいえず、国家賠償責任は認められない。
実務上の射程
行政庁による法律解釈や事実認定が関わる国家賠償事案において、その判断に至るプロセスが客観的な資料に基づき合理的な範囲内であれば、結論が後に否定されたとしても過失を否定する根拠となる。職務上の注意義務の基準を「合理的な解釈の余地」に求めたものとして、国賠法の過失論において活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)486 / 裁判年月日: 昭和33年10月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員が事務処理において第三者の権利を侵害したとしても、当時の証拠資料(公正証書等)に基づき所有権の帰属を信じたことに相当な理由がある場合には、過失を否定し、国家賠償責任を免れる。 第1 事案の概要:上告人は、金沢市の事務担当者が本件家屋の所有権を誤認し、真の所有者である上告人ではなく第三者(D)…