起訴前の勾留状に引用された逮捕状記載の被疑事実と公判請求書記載の公訴事実とが相類似し、その異同が明白でない場合において、関係検察官、裁判官が、各自の識見、信念に従つて、刑訴法上その間に同一性ありや否やを判断したものと認められる以上、右判断の結果が仮に誤つていても国家賠償法第一条第一項にいわゆる故意過失があるとはいえない。
刑事訴訟法上の事実の同一性に関する判断の過誤と国家賠償法第一条第一項にいわゆる過失の有無
刑訴法60条,国家賠償法1条1項
判旨
裁判官等の職務行為に基づく国家賠償請求において、法律上の判断に個人差が生じ得る事案では、独自の識見や信念に基づき判断がなされた以上、後にその判断が否定されても直ちに過失は認められない。刑事手続上の勾留取消決定があったとしても、民事裁判所はその判断に拘束されず、公務員の過失の有無を独自に判断すべきである。
問題の所在(論点)
刑事部がなした勾留取消決定という判断と異なる判断を民事部が行うことは許されるか。また、後に「不法」と判断された裁判上の判断について、直ちに国家賠償法上の過失が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項の「過失」の有無は、公務員が職務上尽くすべき注意義務を尽くしたか否かで判断される。特に、法律上の価値判断を伴う事案において、関係公務員が各自の有する識見・信念によって判断を行ったのであれば、仮にその判断が後に誤りとされた(例えば上訴審等で否定された)としても、当然に故意または過失が生ずるものではない。
重要事実
上告人は刑事被告人として勾留されていたが、仙台高裁刑事部が、逮捕状記載の事実と公訴事実の間に基本的事実の同一性がない(不法な勾留である)として勾留取消決定を下し、上告人は釈放された。上告人は、この勾留取消決定を根拠に、それまでの検察官の公訴提起や裁判官の勾留・更新決定には故意・過失による違法があるとして、国に対し損害賠償を求めた。
あてはめ
まず、刑事部による勾留取消決定は民事訴訟法上の既判力を生じさせないため、民事裁判所はこれに拘束されない。次に、過失の点については、本件のような事実の同一性の有無は「法律上の価値判断」の問題である。第一審および第二審(勾留取消前)の裁判官・検察官、さらには弁護人までもが同一性を肯定していた事実に照らせば、当時の関係官が各自の識見に基づき判断したものといえる。したがって、後に別の裁判部が異なる見解を示したからといって、従前の判断に故意・過失があったとは認められない。
結論
本件における公務員の判断に故意・過失は認められず、国家賠償請求は棄却される。
実務上の射程
裁判官の職務行為に関する国賠訴訟において、「判断の誤り=過失」とはならないことを示した。後に「判決(裁判)が違法である」旨の公的判断(上級審の破棄や勾留取消)が出た場合でも、当時の判断が合理的な識見に基づくものであれば過失は否定されるという、司法権の独立と公務員の裁量を重視する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)470 / 裁判年月日: 昭和38年7月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の委員による判断が、過去の調停の存在にもかかわらず事実関係に基づき合理的な解釈として行われたものであるならば、その職務執行につき故意または過失があったとは認められない。 第1 事案の概要:上告人と訴外Dの間には、本件農地の小作関係について昭和21年4月15日に成立した調停が存在していた。しか…