判旨
仮執行宣言付判決に基づき強制執行がなされた後、本案判決が取り消された場合であっても、不法行為(民法709条)が成立するためには、別件訴訟の提起および仮執行について債権者に故意または過失が認められることを要する。
問題の所在(論点)
仮執行宣言付判決に基づき強制執行が実施された後、その基礎となった判決が取り消された場合、債権者は債務者に対して当然に不法行為責任を負うのか、それとも故意または過失を必要とするのかが問題となる。
規範
仮執行宣言付判決に基づく強制執行により債務者が被った損害の賠償責任を不法行為(民法709条)に基づき追及する場合、一般的な不法行為の成立要件と同様、債権者(執行債権者)に当該訴訟の提起や仮執行の申し立てに関する故意または過失が認められる必要がある。
重要事実
本件の上告人は、被上告人が過去に提起した別件訴訟において仮執行宣言付判決を得て強制執行を受けたが、その後に当該判決が取り消された。上告人は、これにより損害を被ったとして被上告人に対し不法行為に基づく損害賠償を請求した。原審は、別件訴訟の提起および仮執行につき、被上告人に故意・過失はないと認定し、上告人の請求を棄却した。
あてはめ
本件において、原審は事実関係を詳細に検討した結果、被上告人が別件訴訟を提起し、かつ仮執行宣言に基づいて執行を申し立てた行為について、不法行為法上の故意または過失を基礎付ける特段の事情はないと判断した。最高裁は、この原審の証拠判断および事実認定を適法なものとして是認し、故意・過失の存在を前提としない上告人の主張を退けた。
結論
不法行為に基づく賠償請求は認められない。強制執行の基礎となった判決が後に取り消されたとしても、執行債権者に故意・過失が認められない限り、民法709条の責任は成立しない。
実務上の射程
本判決は、不法行為構成を採る場合の要件を示したものである。実務上、仮執行後に判決が取り消された場合の救済は、民事訴訟法260条2項に基づく「原状回復及び損害賠償」の裁判(無過失責任)によってなされるのが通例であるが、本判決のように民法上の不法行為を主張する場合には故意・過失の立証が必要となる点に注意すべきである。
事件番号: 昭和26(オ)462 / 裁判年月日: 昭和29年3月9日 / 結論: 棄却
民訴第一九八条第二項の損害賠償は別訴で請求することを妨げない。