一 係争物件を自己の所有と信じ占有していた者が、本権の訴において敗訴したからとて、右敗訴者は、当然には、不法行為の関係についてまで、起訴の時から悪意の占有者とみなされるものではない。 二 甲が乙を相手として船舶の所有権確認、同引渡請求の訴(前訴)につき勝訴の確定判決を得た上、さらに乙を相手として、右船舶の滅失毀損による不法行為を理由とし損害賠償請求の訴(後訴)を提起した場合、たとえ前訴において、乙が右船舶を現に占有している事実を認めていたとしても、後訴において、乙が、右船舶は前訴の口頭弁論終結前乙において売却処分し、その頃右船舶が滅失毀損したと主張することは、なんら前訴の既判力に牴触しない。 三 不法行為による物の滅失毀損に対する損害賠償の金額は、特段の事由のないかぎり、滅失毀損当時の交換価格により定むべきである。
一 本権の訴における敗訴者は不法行為についても起訴の時から悪意の占有者とみなされるか 二 後訴における主張が前訴の既判力に牴触しない一事例 三 不法行為による物の滅失毀損と損害賠償額算定の基準時期
民法189条,民法709条,民訴法199条1項,民訴法709条
判旨
本権の訴えに敗訴した占有者は、民法189条2項により起訴の時から悪意の占有者とみなされるが、そのことのみで直ちに不法行為(民法709条)上の故意・過失が推認されるわけではない。また、損害賠償額は、特段の事情がない限り、知った時や引渡執行時ではなく「滅失毀損当時の交換価格」を基準に算定すべきである。
問題の所在(論点)
1. 本権の訴えで敗訴し「悪意の占有者」とみなされる場合、当然に不法行為上の過失が認められるか。 2. 前訴判決の既判力は、目的物の滅失・毀損という事実関係の有無にまで及ぶか。 3. 不法行為に基づく損害賠償額の算定基準時はいつか。
規範
1. 占有者が本権の訴えに敗訴した場合、民法189条2項により起訴の時から悪意の占有者とみなされるが、これによって当然に民法709条の故意又は過失が認められるものではない。不法行為の成否は、別途占有者の過失等の有無を審理して判断すべきである。 2. 確定判決の既判力は、基準時における訴訟物たる権利関係の存否にのみ及び、訴訟物でない単なる事実関係には及ばない。 3. 不法行為による目的物滅失・毀損の損害賠償額は、特段の事情のない限り、滅失・毀損当時の交換価格を基準に算定する。
重要事実
本件船舶の所有権確認・引渡訴訟(前訴)において、占有者である上告人は敗訴した。被上告人は、上告人が前訴判決前に船舶を第三者に売却等したことが不法行為に当たるとして損害賠償を請求。原審は、上告人が起訴時から悪意の占有者とみなされることを理由に直ちに不法行為の成立を認め、また前訴で占有の事実が確定している以上、滅失毀損の事実は主張できないとして、引渡執行時の価格を基準に賠償を命じた。
あてはめ
1. 民法189条2項は果実収取権等に関する規定であり、不法行為の過失を擬制するものではない。本件でも、船舶の処分につき上告人に故意・過失があったかは、具体的な売却事情等を個別に検討すべきである。 2. 前訴の訴訟物は所有権や引渡請求権であり、船舶の一部滅失という事実は訴訟物ではない。よって既判力は及ばず、上告人は前訴判決前の一部滅失の事実を主張できる。 3. 損害は滅失毀損時に発生するものであるから、その当時の交換価格を確定すべきであり、被上告人が事実を知った時や引渡執行時を基準とした原審の判断は誤りである。
結論
原判決を破棄し、差し戻す。不法行為の成立には別途故意・過失の立証が必要であり、賠償額は滅失・毀損当時の交換価格によるべきである。
実務上の射程
民法189条2項(悪意占有者の擬制)と民法709条の要件判断を峻別する際の重要判例。また、既判力の客観的範囲(訴訟物に限る)と、不法行為における損害算定の原則(滅失時基準)を定めた基本的事案として答案で活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)832 / 裁判年月日: 昭和35年2月19日 / 結論: 棄却
債権者が債務者に対する強制執行として第三者の店舗において第三者の所有占有にかかる営業用動産を差押えた場合でも、(イ)右第三者は債務者から営業譲渡を受けたものであつて、同一店舗で同一商号を用い右商号のみを表示する従前と同一の看板を掲げ従前の従業員数名を使用して営業を続け、右店舗には自ら居住せず自己の標札も掲げていない等の…