売買の目的たる土地につき罹災都市借地借家臨時処理法第一〇条により対抗力を有する賃借権が存する場合、買主において右対抗力発生の要件たる事実関係を知つていた以上、たとえ対抗力あることを知らなくても、民法第五六六条第二項を類推適用するにつき準用すべき同条第一項の「知ラザリシトキ」にあたらない。
民法第五六六条第二項の類推適用を妨ぐべき買主の悪意の程度
民法566条,罹災都市借地借家臨時処理法10条
判旨
売買の目的物に第三者の対抗力ある賃借権が存在する場合、買主が当該賃貸借の存在を知りつつ買い受けたのであれば、賃借権が法律上の要件を満たし対抗力を有することまで認識していなくても、担保責任の追及は制限される。
問題の所在(論点)
旧民法566条1項(現行民法565条・562条以下の契約不適合責任)における買主の「悪意」の意義。具体的には、賃借権の存在を知っていれば足りるのか、それともその賃借権が対抗力を有すること(法律上の保護を受けること)まで知っている必要があるのか。
規範
売買の目的物に地上権、永小作権、地役権、採石権または賃借権が存する場合において、買主がその存在を知っていたときは、売主は瑕疵担保責任(現行法上の契約不適合責任)を負わない。買主が「知っていた」というためには、当該権利が存することの認識があれば足り、その権利が法律上対抗力を有することまでの認識を要しない。
重要事実
買主である上告人は、昭和22年10月に本件土地を買い受けた。当時、本件土地には訴外Dの賃借権が存在しており、地上にはDが所有していたガレージの焼跡(コンクリート痕)や水道設備が残存していた。上告人はこれらの状況を知りながら本件土地を買い受けたが、当該賃借権が罹災都市借地借家臨時処理法10条により第三者に対抗可能であることを認識していたか否かが争点となった。上告人は、更地価格相当の代金を支払ったことを理由に、賃借権の存在につき善意であったと主張した。
事件番号: 昭和29(オ)921 / 裁判年月日: 昭和32年6月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産所有権の譲受人が単に悪意であるというだけでは、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当し得るが、具体的事案における特段の事情(背信的悪意者等)が認められる場合には、その主張は許されない。 第1 事案の概要:本件建物の所有者Dは、まずF(被上告人らの前主)に対し昭和22年2月頃に所有…
あてはめ
上告人は、本件土地を買い受ける際、Dに賃貸中である事実、および土地上にD所有の工作物の痕跡がある事実を認識していた。土地が角地であり、既に所有していた隣接地と合わせることで地形成上有利になるという動機から上告人自ら買い受けを申し出たという経緯に照らせば、代金が更地価格相当であったとしても、直ちに賃借権の存在につき善意であったとは認められない。そして、権利の存在という事実を認識している以上、その賃借権が特別法(罹災都市借地借家臨時処理法)によって法的対抗力を有することまで知っている必要はない。
結論
買主が賃貸借の存在という事実を認識して買い受けた以上、売主は担保責任を負わない。したがって、上告人の請求は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)における主観的要件の判断において、権利の存在という『事実』の認識があれば足りることを示した。事実上の使用状況から権利の存在を推認しうる場合に、その法的効力の有無まで認識していなかったという弁解を封じる趣旨で活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)892 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】組合の構成員が、他人の所有に属する物件を組合の所有と信じてこれを侵害した場合には、組合の事情を知り得る立場にある以上、過失がなかったと認めるには十分な特段の事情が必要である。 第1 事案の概要:上告人(所有者)と組合との間には、工場建物および機械器具(本件物件)の売買契約は成立していなかった。しか…
事件番号: 昭和29(オ)930 / 裁判年月日: 昭和30年12月1日 / 結論: 棄却
民法第四一六条第二項に基く損害賠償の請求がなされた場合に、債務者において、債務者が第三者から手附を受取つたことを知つていたときは、手附倍戻の特約がなされていたことを知らなかつたとしても、債権者と第三者間の契約は手附の倍額を償還して解除せられるかも知れぬことを予見していたものというべきである。