民法第四一六条第二項に基く損害賠償の請求がなされた場合に、債務者において、債務者が第三者から手附を受取つたことを知つていたときは、手附倍戻の特約がなされていたことを知らなかつたとしても、債権者と第三者間の契約は手附の倍額を償還して解除せられるかも知れぬことを予見していたものというべきである。
民法第四一六条第二項の特別事情の予見の有無
民法416条
判旨
債務者が第三者との土地売買及び手附受領の事実を知らされていた場合、解約手附による倍額償還という特別損害については、特約の存在を知らなくとも予見可能である。
問題の所在(論点)
債務者が、債権者と第三者との間で売買契約が締結され手附金が授受された事実を知っていた場合、手附の「倍額償還」による損害(特別損害)について、倍戻しの特約の存在まで知らなくとも予見可能性が認められるか。
規範
民法416条2項にいう「特別の事情」に基づく損害については、債務者が債務不履行時においてその事情を予見すべきであったか否かによって判断される。具体的には、特定の転売計画や契約の存在を知っている場合、その契約から通常生じ得る法的効果(解約手附の倍額償還等)についても、特段の事情がない限り予見可能であったと解するのが相当である。
重要事実
被上告人(債権者)は、上告人(債務者)に対し土地の明渡しを求めていたが、上告人が明渡義務を履行しなかった。被上告人は、本件土地を訴外Dに売り渡し、手附金として18万円を受領していた事実を上告人に告げていた。その後、上告人の履行遅滞によりDに対する義務が履行不能となったため、被上告人は手附の倍額を償還して契約を解除し、その償還額相当の損害賠償を上告人に請求した。
事件番号: 昭和36(オ)1068 / 裁判年月日: 昭和38年12月19日 / 結論: 棄却
特別事情による損害か否かは法律問題である。
あてはめ
上告人は、被上告人がDとの間で売買契約を締結し、18万円の手附金を受領した事実を告げられていた。一般に手附は特約がない限り解約手附(民法557条1項)と推定されるものであるから、上告人において倍戻しの特約の存在を明示的に知らされていなかったとしても、自身の履行遅滞によって被上告人がDへの義務を履行できず、手附の倍額を償還して契約解除を余儀なくされる事態は当然に予見できたといえる。したがって、当該倍額償還による損害は予見可能な範囲に含まれる。
結論
上告人は損害を予見していたものということができるため、特別事情による損害賠償責任を免れない。上告棄却。
実務上の射程
転売利益や違約金、倍額償還等の損害について、債務者が「契約の存在」という基礎事実を知っていれば、法的な標準的帰結については具体的な契約条項の認識がなくとも予見可能性が肯定されやすいことを示す。実務上、通知の事由がどこまで具体的であるべきかを検討する際の指標となる。
事件番号: 昭和28(オ)1390 / 裁判年月日: 昭和30年7月26日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和39(オ)1050 / 裁判年月日: 昭和40年5月25日 / 結論: 棄却
賃貸建物の延滞賃料と共に賃貸借の存在しない建物占有による損害金とを不可分的に併せてした催告であつても、当該賃貸借契約解除の前提たる催告として有効である。