判旨
不動産所有権の譲受人が単に悪意であるというだけでは、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当し得るが、具体的事案における特段の事情(背信的悪意者等)が認められる場合には、その主張は許されない。
問題の所在(論点)
不動産二重譲渡の譲受人等において、単に第一の譲渡の事実を知っている(悪意)というだけで、民法177条の登記の欠缺を主張し得ない第三者に該当するか。また、どのような場合に「正当な利益」が否定されるか。
規範
不動産所有権の移転につき、第三者が単に譲渡の事実を知っている(悪意である)というだけでは、民法177条の「第三者」に含まれ、登記の欠缺を主張する正当な利益を失うものではない。しかし、信義則等に照らし、登記の欠缺を主張することが正当な利益を有しないと認められる特別な事情がある場合には、対抗力を欠くことを援用できない。
重要事実
本件建物の所有者Dは、まずF(被上告人らの前主)に対し昭和22年2月頃に所有権を譲渡した。その後、Dは昭和22年10月にEのため担保を設定し、昭和23年5月にEから上告人(買受人)へと所有権が移転された。被上告人らはFから順次所有権を取得したが、上告人は被上告人側の登記欠缺を主張して対抗しようとした。原審は、上告人が単に悪意であるだけでなく、諸般の事情に基づき登記欠缺を主張する正当な利益を有しないと判断していた。
あてはめ
最高裁は、単なる悪意のみでは「正当な利益」は否定されないとする一般論を前提としつつ、本件においては原審が確定した事実関係(詳細は判決文上明記されていないが、上告人の態様に関する具体的事情)を重視した。原審が「単に悪意であったということのみを理由として」正当な利益を否定したわけではないことを指摘し、当該事実関係の下で上告人を登記欠缺を主張する正当な利益を有しないとした判断を相当と認めた。これは、上告人が単なる悪意を超えた背信性を有していた、あるいは権利主張が信義則に反する状況であったことを示唆するものである。
結論
不動産の第三者が単に悪意であるだけでは登記の欠缺を主張する正当な利益を失わないが、本件事案のような特定の事実関係の下では、登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないと解される。したがって、上告人の主張は採用されず、上告を棄却する。
事件番号: 昭和32(オ)156 / 裁判年月日: 昭和33年4月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、後の買受人が先に買い受けた者の存在を知っていた(悪意であった)としても、それだけでは民法177条の「第三者」に該当することを妨げられず、登記を先に備えた者が優先する。 第1 事案の概要:上告人Aが係争土地を買い受けた後、被上告人も同土地を買い受けた。被上告人は、上告人Aが…
実務上の射程
民法177条の「第三者」の範囲を画する背信的悪意者排除の法理を補強する判例として機能する。答案上は、まず「単なる悪意者は第三者に含まれる」という原則を示し、その上で本判決を根拠に「単なる悪意を超えた、信義則上登記の欠缺を主張する正当な利益を欠く特段の事情」の有無を検討する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)149 / 裁判年月日: 昭和35年10月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】処分禁止の仮処分の被保全権利(所有権に基づく給付請求権)が認められない場合、仮処分債権者は目的不動産の譲受人の登記欠缺を主張する正当な利益を有さず、譲受人は仮処分の存在にかかわらず自己の所有権取得を主張できる。 第1 事案の概要:上告人らは、Bとの特約に基づき建物を建築してBの所有とし、これを賃借…
事件番号: 昭和33(オ)889 / 裁判年月日: 昭和35年6月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借の目的物である建物の所有権が順次移転した場合、借家法上の対抗要件を具備しているときは、賃貸人としての地位は新所有者に当然に承継される。 第1 事案の概要:建物所有者Dと賃借人(被上告人)の間で賃貸借契約が締結されていた。その後、本件建物の所有権がDからEへ、さらにEから上告人へと順次移転した…
事件番号: 昭和33(オ)890 / 裁判年月日: 昭和35年6月23日 / 結論: 棄却
賃貸人の地位と転借人の地位とが同一人に帰した場合であつても、転貸借は、当事者間にこれを消滅させる合意の成立しない限り、消滅しないものと解すべきである。