賃貸人の地位と転借人の地位とが同一人に帰した場合であつても、転貸借は、当事者間にこれを消滅させる合意の成立しない限り、消滅しないものと解すべきである。
賃貸人の地位と転借人の地位との混同と転貸借。
民法601条,民法613条
判旨
建物の所有権者たる賃貸人の地位と転借人の地位が同一人に帰属した場合であっても、当事者間に転貸借関係を消滅させる特別の合意が成立しない限り、転貸借関係は当然には消滅しない。
問題の所在(論点)
賃貸人の地位と転借人の地位が同一人に帰属した場合(混同)、転貸借関係は当然に消滅するか、それとも存続するか(民法520条の適用範囲)。
規範
民法520条の混同の例外として、賃貸人の地位と転借人の地位が同一人に帰したとしても、当事者間に転貸借関係を消滅させる特別の合意が成立しない限り、転貸借関係は当然には消滅しないと解するのが相当である。
重要事実
本件家屋の所有権者(賃貸人)の地位と、当該家屋の転借人の地位が同一人(被上告人)に帰属した。上告人は、被上告人に対し不法占有に基づく損害賠償等を請求したが、被上告人は転借権の存在を根拠に不法占有ではないと主張した。原審は転借権の存在を認めて請求を棄却したため、上告人が混同による転借権消滅等を理由に上告した。
事件番号: 昭和33(オ)889 / 裁判年月日: 昭和35年6月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借の目的物である建物の所有権が順次移転した場合、借家法上の対抗要件を具備しているときは、賃貸人としての地位は新所有者に当然に承継される。 第1 事案の概要:建物所有者Dと賃借人(被上告人)の間で賃貸借契約が締結されていた。その後、本件建物の所有権がDからEへ、さらにEから上告人へと順次移転した…
あてはめ
本件において、被上告人は家屋の所有権者としての地位を承継し、かつ転借人としての地位も有している。しかし、当事者間において転貸借関係を積極的に消滅させる旨の「特別の合意」があった事実は認められない。したがって、混同の原則にかかわらず、転借権は消滅せず存続すると評価される。その結果、被上告人の占有は正当な権原に基づくものとなり、不法占有は成立しない。
結論
賃貸人と転借人の地位が同一人に帰しても、特段の合意がない限り転貸借関係は消滅しない。したがって、転借権の存在を認めて不法占有を否定した原判決は妥当である。
実務上の射程
本判決は、中間省略的な法律関係の整理や、転借権を維持すべき正当な利益(例:他に対抗すべき利害関係人が存在する場合や、管理上の便宜など)がある場合の処理として有用である。答案上では、混同の例外を論じる際の根拠として、民法520条但書の趣旨を敷衍しつつ本判旨を引用するのが効果的である。
事件番号: 昭和38(オ)917 / 裁判年月日: 昭和39年12月15日 / 結論: 棄却
家屋賃借人が賃借家屋の一部を賃貸人の承諾を得て他に転貸した場合において、転借人がその後賃貸人から右家屋の譲渡を受けてその所有権を取得したときは、転借人において賃貸人の地位を承継し、爾後は自ら賃借人に対して右家屋全部の使用収益をなさしめる義務を負うことになるのであり、転借人において当該転借部分の使用収益をなしうるのは、賃…
事件番号: 昭和29(オ)921 / 裁判年月日: 昭和32年6月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産所有権の譲受人が単に悪意であるというだけでは、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当し得るが、具体的事案における特段の事情(背信的悪意者等)が認められる場合には、その主張は許されない。 第1 事案の概要:本件建物の所有者Dは、まずF(被上告人らの前主)に対し昭和22年2月頃に所有…