不法行為の損害賠償の算定に際して、被害者の過失を斟酌すると否とは、裁判所の自由裁量に属する。
民法第七二二条の解釈。
民法722条
判旨
不法行為により物の返還が不能となった場合、被害者は他者の不法行為の有無に関わらず、直ちに損害賠償を請求できる。また、過失相殺の適用可否およびその程度は、裁判所の自由裁量に属する。
問題の所在(論点)
1. 特定物の返還が不能となった場合、被害者は他の不法行為者に対する請求を先行させるべきか。 2. 損害賠償請求において、裁判所が過失相殺を行わないことは違法か。
規範
1. 不法行為に基づき目的物の返還請求権が消滅または履行不能となった場合、被害者は他の不法行為者の存否にかかわらず、直ちに時価相当額の損害賠償を請求し得る。 2. 民法722条2項に基づく過失相殺(被害者の過失の斟酌)を行うか否か、またその程度については、裁判所の自由裁量に属する。
重要事実
上告人(被告)は、過失により被上告人(原告)が所有する株券を第三者に売却し、被上告人に対する株券の返還を不能にさせた。被上告人は株券の取戻しを求めることなく、直ちに上告人に対し時価相当額の損害賠償を請求した。これに対し上告人は、①他に不法行為者がいる以上、まずその者から回収を試みるべきである、②被上告人にも過失があるため損害額を減額すべきである、と主張して争った。
あてはめ
1. 上告人らの過失ある売却行為により株券の返還が不能となった以上、法律上の根拠なく他の不法行為者への請求を先行させる必要はない。被上告人は直ちに時価相当額の損害を被ったといえるため、直接上告人らに賠償を求め得ると解される。 2. 裁判所が被上告人の過失を認定していない以上、過失相殺を行わなかったことに違法はない。仮に過失があったとしても、これを賠償額の算定に際して斟酌するか否かは裁判所の合理的な裁量に委ねられている。
結論
被上告人が株券の返還に代えて直ちに損害賠償を請求したことは正当であり、裁判所が過失相殺を行わずに賠償を命じた原審の判断に違法はない。
実務上の射程
共同不法行為の場面等において、被害者が特定の加害者に全額の請求をなすことの正当性を基礎づける。また、答案上、過失相殺は義務的ではなく「できる」規定(裁量)であるとする従来の判例法理を確認する際に用いる。
事件番号: 昭和27(オ)1223 / 裁判年月日: 昭和29年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法722条2項の過失相殺において、裁判所は被害者本人に過失がないと認められる場合には、同条を適用しないことができる。また、第三者作成の私文書の成立について、裁判所は相手方の認否を待たず、自由な心証によってその成立を認定し得る。 第1 事案の概要:本件は損害賠償請求事件であり、被害者Dその他の者に…