他人の立木を過失により自己の立木と信じ不法伐採者に対し占有移転禁止の仮処分をした者が伐採者から示談金を受取つて仮処分を解いた場合には、該立木の所有者に対し不法行為が成立する。
不法行為が成立するとされた事例
民法709条
判旨
不法行為者は、対抗関係における「正当な利益を有する第三者」にあたらないため、被害者は明認方法等の公示を欠いていても所有権を対抗できる。また、被害者が権利保全措置を講じていなかったことのみをもって過失相殺における過失を認めることはできない。
問題の所在(論点)
1. 不法行為者に対し、公示(明認方法)を欠く立木所有権を対抗できるか。 2. 被害者が権利保全措置を講じていなかったことが、民法722条2項の「過失」にあたるか。
規範
1. 立木所有権の移転は、立木法による登記または明認方法という公示を必要とするが、不法行為者は登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に当たらないため、公示なくして所有権を対抗できる。 2. 被害者が権利保全の方法を講じず、または自己の権利が侵害されているのを知らなかったとしても、その一事のみをもって過失相殺(民法722条2項)を適用することはできない。
重要事実
土地所有者である上告人は、第三者D・Eとの裁判上の和解に基づき、本件山林内の立木をDらが搬出・処分することを承諾し、対価を受領した。しかし、当該立木は被上告人が譲り受けていたものであった。上告人の被相続人は立木が他人の所有であることを知っており、上告人も調査すべき注意義務を怠り、過失により他人の立木処分を許容して被上告人に損害を与えた。被上告人は立木所有権の明認方法を施しておらず、また侵害行為を長期間放置していた。
あてはめ
1. 上告人は過失により他人の所有権を侵害した不法行為者であり、被上告人の立木所有権と相容れない権利関係に立つ者(有効な取引関係に立つ第三者)ではない。したがって、被上告人は公示なくして所有権を対抗しうる。 2. 被上告人が長期間権利保全の方法を講ぜず、侵害を知らなかったとしても、その事実のみで被害者に過失があるとは認められないため、過失相殺は認められない。
結論
被上告人は明認方法がなくとも不法行為者である上告人に立木所有権を対抗でき、過失相殺も適用されない。上告人の上告を棄却する。
実務上の射程
物権変動における「第三者」(民法177条)の範囲を画定する際、「背信的悪意者」のみならず、不法行為者や無権利者も除外されるという法理を補強する事案である。また、不法行為における過失相殺の認定において、被害者の単なる「不知」や「不作為」が直ちに過失と評価されないことを示す指針となる。
事件番号: 昭和34(オ)468 / 裁判年月日: 昭和36年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法177条の「第三者」とは、不動産に関する物権の得喪変更の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいい、他人の権利を侵害した不法行為者はこれに含まれない。 第1 事案の概要:被上告人は、兄であるDから本件山林の贈与を受け、その所有権を物権的に取得した。一方で、上告人らはDから本件山林を買…