債権者の占有する動産の強制執行に際し、債権者または第三者が差押物件は債権者の所有ではなく第三者の所有である旨申し出たとしても、債務者または第三者においてその申出に沿う証拠資料を何等提出しなかつたときは、特別の事情のない限り、右執行の遂行につき債権者に過失があつたものと推断することはできない。
第三者所有の動産に対して強制執行をなした債権者の不法行為上の過失責任の有無
民法709条
判旨
差押債権者が債務者の占有する動産を執行した際、第三者の所有物であったとしても、客観的な証拠資料を伴わない口頭や書面による権利主張のみでは、債権者に過失は認められず、調査義務も生じない。
問題の所在(論点)
債務者の占有する動産に対する強制執行において、第三者から所有権の主張を受けた債権者が、客観的な証拠資料を提示されないまま執行を続行した場合に、民法709条の過失が認められるか。また、債権者に真偽の調査義務が生じるか。
規範
差押債権者が債務者の占有する動産につき、その所有に属するものとして強制執行をなした場合、直ちに過失があるとは推定されず、第三者が所有権を証明すべきである。執行の際、債務者や第三者が所有権の所在を告げたとしても、その通告が当時の状況に照らし正当であって、これを無視することが債権者の過失を推断させるような「特別の事情」がない限り、客観的な証拠資料の提示がないときは、債権者に真偽の調査義務は生ぜず、不法行為は構成しない。
重要事実
差押債権者である上告人は、債務者Dの占有する動産を差し押えたが、当該動産は被上告人の所有物であった。執行時、Dの従業員や被上告人の代理人弁護士から「公売処分により取得した被上告人の所有物である」旨の通告や、内容証明郵便による警告、競売中止の要請がなされていた。上告人は税務署に照会したが多忙を理由に回答を得られず、そのまま競売を遂行した。原審は、弁護士による通告やその符号に基づき上告人の過失を認めたため、上告人が上告した。
あてはめ
被上告人側からは弁護士を通じて取得経緯の説明や警告がなされていたが、これに裏付けとなる客観的な「証明資料」が添付されていた事実は認められない。債権者に調査義務がない以上、税務署への照会で確実な返答が得られなかったとしても、それは調査不充分の責に帰すべきものではない。したがって、証拠資料を伴わない一方的な通告がなされたというだけでは、債権者の過失を推断させる「特別の事情」があるとはいえない。
結論
債権者が第三者の所有権を知らなかったことにつき過失があるとは認められず、不法行為は成立しない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
動産執行における債権者の過失の有無を判断する際のリーディングケースである。占有を信じて執行する債権者の地位を保護し、過失の認定には単なる主張(通告)だけでなく、客観的証拠の提示が必要であることを示した。司法試験においては、執行妨害への対応や、不法な強制執行に基づく損害賠償請求の可否を論じる際の判断枠組みとして有用である。
事件番号: 昭和36(オ)1303 / 裁判年月日: 昭和39年1月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】執行吏が対象物件に他人の権利が及んでいる可能性を認識しつつ、その旨を公表して競売を実施した場合、債権者・債務者の主張に基づき手続を続行したことに職務上の違法性や過失は認められない。 第1 事案の概要:執行吏Dは、伐倒木の競売にあたり、裁判所書記官から当該物件が仮処分の対象である可能性を指摘されてい…