差押にかかる伐倒木が債務者の所有でなくかつ他の仮処分執行中のものであるのにこれを競売したことについて執行吏に過失が認められないとされた事例。
判旨
執行吏が対象物件に他人の権利が及んでいる可能性を認識しつつ、その旨を公表して競売を実施した場合、債権者・債務者の主張に基づき手続を続行したことに職務上の違法性や過失は認められない。
問題の所在(論点)
執行吏が対象物件の権利関係に疑念を抱きながら競売を続行した場合において、国家賠償法1条1項の「違法」または「過失」が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項の「過失」および「違法」の有無は、執行吏がその職務執行において尽くすべき注意義務を尽くしたか否かにより判断される。執行吏が、対象物件の権利関係に疑念を抱いたとしても、債権者の申立てと債務者の所有主張がある状況下で、リスクを競買人に明示した上で手続を適法に続行した場合には、その職務行為に違法性および過失は認められない。
重要事実
執行吏Dは、伐倒木の競売にあたり、裁判所書記官から当該物件が仮処分の対象である可能性を指摘されていた。Dは多少の疑念を抱き躊躇したが、債権者が競売を強く求め、かつ債務者も自己の所有であると主張したため、競売現場において「仮処分の疑念があるが、責任は負わない」旨を表明して競売を実施した。その結果、事情を知った他の希望者は辞退し、債権者Eが競落。その後、上告人がEから当該物件を買い受けたが、後に損害を被ったとして、執行吏の過失を理由に国家賠償を請求した。
あてはめ
執行吏Dは、仮処分の対象である可能性を認識した際、直ちに手続を強行するのではなく、債権者に確認を行い、債務者からも所有権の主張を得ている。さらに、競売現場において「仮処分の疑いがある」旨を明示し、競買人に対してリスクを周知させる措置を講じている。このような状況下では、執行吏が職務上負うべき注意義務を怠ったとはいえず、また執達吏規則10条(当時)に照らしても手続に違法な点は存在しない。したがって、職務行為に故意または過失があるとは認められない。
結論
執行吏の職務行為に違法性および過失は認められないため、被上告人(国)は国家賠償法上の責任を負わない。
実務上の射程
執行吏の形式的審査権限の範囲と注意義務の限界を示す。実体上の権利関係に争いがある場合でも、手続上の要件を満たし、かつ知り得たリスクを適切に開示した上での執行であれば、公務員としての法的責任は否定されやすいことを示唆している。答案上は、職務執行の適法性判断における「リスク告知」の重要性を裏付ける事案として参照できる。
事件番号: 昭和33(オ)601 / 裁判年月日: 昭和34年12月11日 / 結論: 棄却
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