一 死者の労働可能年令期は、死者の年令(死亡時六〇歳)、職業(クリーニング業)、健康状態(きわめて健康)その他諸般の事情を考慮して認定すべきであつて、労働可能年令期を七四歳と認定・判断しても違法とはいえない。 二 慰謝料額の算出のときにしんしやくすべき被害者の過失の割合と物質的損害の賠償額のそれとは同一の割合であることを要するものではない。
一 七四歳までの労働可能年令期を認めた事例 二 慰謝料額における過失相殺の割合と物質的損害額のそれとは同一であることを要するか
民法709条,民法722条
判旨
不法行為の損害賠償額算定において、被害者の過失を斟酌するか否か、およびその割合の決定は裁判所の裁量に属し、慰謝料と物質的損害で異なる過失割合を適用することも許容される。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求において、1.労働可能年数の認定基準、2.過失相殺の適用の是非および割合の決定が裁判所の裁量に属するか、3.物質的損害と慰謝料とで異なる過失相殺の割合を適用することが許されるか、が問題となった。
規範
不法行為(民法722条2項)において被害者の過失を斟酌するか否か、およびどの程度の割合で斟酌して損害額を算出するかは、裁判所の自由裁量に属する。また、慰謝料額の算出に際して斟酌すべき過失の割合は、財産的損害(物質的損害)の算出において適用される過失割合と必ずしも同一であることを要しない。
重要事実
不法行為による死亡事故が発生し、被害者の遺族らが損害賠償を請求した事案である。原審は、被害者の年齢、職業、健康状態等の諸事情を考慮して、死亡した被害者の労働可能年齢期を74歳と認定した。また、損害額の算定において被害者側の過失を斟酌したが、その際、物質的損害と慰謝料のそれぞれについて適用した過失の程度や、具体的な過失相殺の運用について、上告人が違法であると主張して争った。
あてはめ
労働可能年数については、死者の年齢、職業、健康状態その他諸般の事情を総合的に考慮して認定すべきであり、本件で74歳とした原審の判断は是認できる。過失相殺については、当裁判所の判例に基づき裁判所の自由裁量に属する事項である。特に慰謝料は精神的苦痛を慰謝する性質上、その算定における過失の斟酌割合が、客観的な計算が可能な物質的損害の賠償額を算定する際の割合と一致していなくても、直ちに違法とはいえない。
結論
被害者の過失の斟酌およびその割合の決定は裁判所の裁量であり、物質的損害と慰謝料で異なる過失割合を用いることも適法であるとして、上告を棄却した。
実務上の射程
過失相殺が「裁判所の裁量」であることを強調する判例であり、特に慰謝料と財産的損害で異なる過失割合(いわゆる「二本立て」)を肯定する根拠として実務上重要である。ただし、現在の実務では公平の観点から同一の過失割合を適用するのが一般的であり、あえて異なる割合を主張・認定する場合には、本判決を前提としつつも、特別な事情の有無を慎重に検討する必要がある。
事件番号: 昭和39(オ)272 / 裁判年月日: 昭和40年5月18日 / 結論: 棄却
不法行為の損害賠償の算定に際して、被害者の過失を斟酌すると否とは、裁判所の自由裁量に属する。