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上司の不注意な指示、監督による事故死につき民法第七一五条の責任の成立が認められた事例
民法715条
判旨
民法722条2項に基づく過失相殺において、被害者に過失が認められる場合であっても、裁判所が損害賠償額の算定に際してその過失を斟酌するか否かは、原則として裁判所の自由裁量に属する。
問題の所在(論点)
被害者に過失が認められる(または認められる余地がある)場合、裁判所は必ず過失相殺を行い賠償額を減額しなければならないか。民法722条2項の「裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」という規定の性質が問われた。
規範
不法行為に基づく損害賠償額を算定する際、被害者に過失が認められる場合であっても、民法722条2項によりその過失を斟酌して賠償額を減額するか否かは、原則として事実認定を行う裁判所の自由裁量に委ねられる。
重要事実
上告会社(被告)の倉庫係長であった訴外Eの不注意な指示・監督により、部下であった訴外D(被害者)が事故死した。Dの遺族が上告会社に対し、民法715条1項に基づく使用者責任を追及したところ、上告会社側はD自身にも過失があったとして過失相殺を主張した。原審はDの過失の有無について断定を避けつつ、仮に過失があったとしてもこれを斟酌せずに賠償額を算定したため、上告会社がこれを不当として上告した。
あてはめ
最高裁は、原審の確定した事実関係に基づけばDに全く過失がなかったと断定することには疑問の余地があると指摘した。しかし、被害者に過失が認められる局面であっても、その過失を損害賠償額の算定において実際に斟酌するかどうかは、法律上「できる」と規定されている通り、裁判所の合理的な裁量の範囲内にあると判断した。したがって、原審がDの過失をあえて斟酌せずに賠償額を決定したとしても、直ちに結論に影響を及ぼす違法があるとはいえないとされた。
結論
被害者に過失があっても、過失相殺をするか否かは裁判所の自由裁量であるため、過失を斟酌しなかった原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
司法試験等の答案上は、過失相殺(722条2項)が「義務」ではなく「裁量」であることを示す根拠として用いる。ただし、現在の実務では公平の観点から、過失が認められる場合には過失相殺を行うのが通常であるため、裁量権の逸脱・濫用がないかという文脈で意識すべき判例である。
事件番号: 昭和33(オ)1129 / 裁判年月日: 昭和36年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保険募集の取締に関する法律11条(現:保険業法283条)に基づく保険会社の損害賠償責任に対し、民法722条2項の過失相殺の規定を適用することは正当である。また、その過失相殺の割合の決定は事実審裁判所の自由裁量に属し、特段の説明を要しない。 第1 事案の概要:保険外務員E(別名F)が保険募集に際して…