原審の確定するような事実関係(原判決参照)のもとでは、たとえ被害者たる被上告金庫職員らに過失ありと判断するのが相当であつても、右過失を賠償金の算定にしんしやくしなければならないものではない。
不法行為による損害賠償額算定につき被害者の過失をしんしやくしなくても違法でないとされた事例。
判旨
不法行為に基づく損害賠償額の算定において、被害者側の過失を斟酌するか否かは裁判所の裁量に属し、過失を斟酌しなかったとしても直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償において、被害者(またはその履行補助者)に過失が認められる場合、裁判所は必ず民法722条2項を適用して過失相殺を行わなければならないか。裁判所の裁量の範囲が問題となる。
規範
民法722条2項に基づく過失相殺について、被害者の過失を斟酌するか否か、およびその割合の決定は、原則として裁判所の自由な合理的な裁量に委ねられる。したがって、事実関係に照らして過失を斟酌する必要がないと認められる場合には、斟酌しないことも許容される。
重要事実
信用金庫の支所長であった上告人が、有効な方式を欠く無効な支払保証を常例として行っていた。同支所の後任者や職員らは、この支払保証を有効と信じ、振出人の預金残高を調査せずに小切手決済を行ったため、信用金庫に損害が生じた。上告人は、決済に関わった職員らの過失を損害賠償額の算定において斟酌すべき(過失相殺すべき)と主張した。
あてはめ
本件では、上告人が名掛丁支所長として不適切な支払保証を常例化させており、職員らがそれを信じて決済を行う土壌を作っていた。このような特殊な事実関係の下では、仮に決済に関わった後任職員らに過失が認められたとしても、上告人の責任を減じるためにそれを斟酌する必要性は認め難い。裁判所が裁量により過失を斟酌しないと判断したことは、結局において相当である。
結論
被害者に過失がある場合でも、裁判所が諸般の事情を考慮して過失相殺を行わないことは違法ではない。したがって、上告人の損害賠償責任について過失相殺を認めなかった原審の判断は維持される。
実務上の射程
被害者側に過失が認められる場合に、裁判所が「あえて過失相殺をしない」という選択肢を認めた判例である。もっとも、実務上は公平の観点から過失相殺がなされるのが原則であり、本件は加害者側の背信性が極めて高いなどの特殊な事情に基づく射程の限定に注意が必要である。
事件番号: 昭和42(オ)819 / 裁判年月日: 昭和43年10月29日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和27(オ)722 / 裁判年月日: 昭和30年1月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】過失相殺(民法722条2項)は、被害者に生じた損害の総額に対して必ず一律に行わなければならないものではなく、項目別など個別の算定過程において適用することも許容される。 第1 事案の概要:上告人は、三輪車と相手方の車両がすれ違う際の事故により損害を被った。原審は、三輪車が右方に寄る以前の状況や事故態…