判旨
不法行為に基づく損害賠償請求において、被害者の過失を斟酌して賠償額を軽減するか否か、およびその軽減の程度を決定することは、裁判所の裁量に属する。
問題の所在(論点)
不法行為の損害賠償額を算定する際、裁判所が損害項目ごとに過失相殺の有無や程度を異ならせることが許されるか(裁判所の裁量の範囲)。
規範
民法722条2項の適用において、被害者に過失が認められる場合に、損害賠償額を決定するにあたってその過失を斟酌するかどうか、および斟酌する場合にどの程度賠償額を軽減するかは、専ら裁判所の裁量に属する判断事項である。したがって、同一の事案に含まれる複数の損害項目のうち、特定の項目(得べかりし利益等)についてのみ過失相殺を行い、他の項目(葬儀費用等)についてはこれを行わないことも、裁判所の裁量として許容される。
重要事実
上告人の運転する車両が、左側通行義務等の過失により事故を起こし、被上告人の長男Dを死亡させた。被上告人らは、将来の得べかりし利益の喪失および葬式費用等の支出による損害の賠償を求めた。一審および原審は、得べかりし利益については被害者の過失を斟酌して損害額の5分の3に軽減したが、葬式費用等については過失を斟酌せず全額を賠償額として認めた。上告人は、一部の損害項目についてのみ過失相殺を行い、他を行わないのは違法であるとして上告した。
あてはめ
被害者の過失の斟酌およびその程度は裁判所の裁量に属するものである。本件において、原審が被害者の将来の逸失利益については過失を考慮して損害額を5分の3に制限する一方で、現実に支出された葬式費用等については過失を考慮せず全額の賠償を命じたとしても、それは裁判所に与えられた裁量権の範囲内で行われた判断である。したがって、このような措置に違法な点は認められない。
結論
被害者の過失を損害項目ごとに異なって斟酌することは裁判所の裁量権の行使として適法であり、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は過失相殺が裁判所の職権的な裁量事項であることを示している。もっとも、現在の実務(全損害額を合算した後に過失割合を乗じる方式)とは運用が異なる点に注意が必要である。答案上は、過失相殺の要否や割合が事実認定および評価を伴う裁判所の裁量であることを論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)1256 / 裁判年月日: 昭和37年5月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為による損害賠償請求において、被害者側にも過失が認められる場合であっても、加害者は直ちに免責されるものではなく、過失相殺として損害賠償額の算定に際して斟酌されるにとどまる。 第1 事案の概要:上告人の被用者Dが運転する車両による事故により、被害者Eが死亡した。本件事故はDの過失に基づいて惹起…