一 自動車運転者が業務上過失致死被告事件の判決で過失を否定された場合でも、不法行為に関する民事判決ではその過失を否定しなければならぬものではない。 二 幼児の生命を害された慰藉料を請求する父母の一方に、その事故の発生につき監督上の過失があるときは、父母の双方に民法第七二二条第二項の適用があるものと解すべきである。
一 刑事判決における過失の有無の判断と民事判決 二 慰藉料を請求する父母の一方に過失のある場合と民法第七二二条第二項
民法709条,民法722条2項,民訴法185条
判旨
民法722条2項の過失相殺において、被害者本人の過失だけでなく、被害者と身分上ないし生活関係上、一体とみなし得る「被害者側」の過失をも考慮できると判示した。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償額を定める際、被害者本人ではない監督義務者の過失を過失相殺(民法722条2項)の対象として考慮できるか。「被害者側の過失」の範囲が問題となる。
規範
民法722条2項にいう「過失」とは、単に被害者本人の過失のみならず、広く被害者側の過失をも包含する趣旨と解するのが相当である。したがって、事案の発生に際し、被害者の監督義務者が同伴しており、その者に不注意(抑制を怠った等)が認められる場合には、その者の過失を被害者側の過失として斟酌することができる。
重要事実
加害者の運転するトラックが、進路左側から右側へ道路を横断しようとした8歳の児童(被害者D)に激突し、負傷させた。第一審および控訴審は、運転者の前方注視義務違反を認め過失を肯定したが、被害者側の主張した「被害者側の過失(監督義務者の過失)」については考慮しなかった。上告人は、事故当時Dを抑制できたはずの監督義務者の不注意を斟酌すべきと主張して上告した。
あてはめ
本件において、被害者Dは当時8歳であり、事故発生時に監督義務者が同伴していた可能性がある。もし当該監督義務者がDを抑制できたにもかかわらず、不注意によってこれを抑制しなかったという事実が認められるならば、その監督義務者の過失を「被害者側の過失」として損害賠償額の算定に当たり斟酌すべきである。原審はこの点について何ら考慮を払っておらず、審理不尽・理由不備の欠陥がある。
結論
監督義務者の過失も「被害者側の過失」に含まれるため、原判決を破棄し、その過失の有無及び程度を審理させるため本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
被害者に事理弁識能力が備わっていない場合や不十分な場合に、公平な損害分担の観点から「被害者側」に属する者の過失を考慮するための判例。答案上は、被害者と「身分上ないし生活関係上、一体とみなし得る関係」にある者(親、配偶者、雇用主等)の過失を相殺に用いる際の法的根拠として本法理(民法722条2項の拡張解釈)を引用する。
事件番号: 昭和34(オ)807 / 裁判年月日: 昭和36年2月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求において、被害者の過失を斟酌して賠償額を軽減するか否か、およびその軽減の程度を決定することは、裁判所の裁量に属する。 第1 事案の概要:上告人の運転する車両が、左側通行義務等の過失により事故を起こし、被上告人の長男Dを死亡させた。被上告人らは、将来の得べかりし利益の喪失…
事件番号: 昭和42(行ツ)5 / 裁判年月日: 昭和44年12月5日
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求において、過失相殺を行うに当たり、被害者本人の過失だけでなく、被害者と身分上ないし生活上一体をなすとみられる関係にある者の過失を考慮することができる。 第1 事案の概要:被害者(幼児)が道路を横断中、加害者の運転する車両にはねられ負傷した。当時、被害者の監護にあたってい…