判旨
民法722条2項の過失相殺における監護者の過失の有無は、加害者と被害者の公平な損失分担という制度趣旨に照らし、事故現場の状況や監護の態様を総合して判断すべきである。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求において、幼児の監護者が目を離した隙に発生した事故につき、民法722条2項の過失相殺の適用を基礎付ける「監護者の過失」が認められるか。
規範
民法722条2項の過失相殺制度は、加害者と被害者の損失分担における当事者間の公平を目的とするものである。したがって、被害者側の過失(監護者の過失を含む)の有無については、事故現場の客観的状況(道路の見通しや交通量等)および監護者が当時置いていた具体的態様を、加害者の加害行為(過失の程度)と対比し、公平の観点から判断する。
重要事実
加害者は、軽自動二輪車を時速20kmで進行中、幼児である被害者を視認した。被害者が進路上に走り出るのを発見したが、警笛や停止等の回避措置をとらず「無事通過できる」と軽信して進行し、被害者に接触・転倒させた。他方、被害者の監護状況は、父が外出、母が病臥中であり、祖母が家事の傍ら監護していた。祖母は被害者が庭で遊んでいるのを見極めた上で農地へ用足しに出た直後、見通しの良い直線道路(交通量は少ない)で本件事故が発生した。
あてはめ
まず、加害者は幼児を認識しながら漫然と進行を継続し、回避措置を怠った過失が顕著である。次に監護者について検討すると、事故現場は交通量が少なく特段の注意を要する場所ではない。また、祖母は被害者が庭で遊んでいることを確認した上で用足しに出ており、直後に事故が発生している。このような事情に鑑みれば、親権者が被害者を「一人で放置していた」とはいえず、加害者の重大な過失と対比した際、公平の観点から監護者に過失があったとは認められない。
結論
監護者に過失があるとは認められず、過失相殺は適用されない。上告棄却。
実務上の射程
幼児の飛び出し事故等における被害者側の過失(監護者の過失)の判断において、単に「目を離した」事実のみで直ちに過失を認めるのではなく、加害者の過失の態様との相対的な比較や、現場の危険性に応じた監護の相当性を論じる際の指標となる。
事件番号: 昭和27(オ)1223 / 裁判年月日: 昭和29年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法722条2項の過失相殺において、裁判所は被害者本人に過失がないと認められる場合には、同条を適用しないことができる。また、第三者作成の私文書の成立について、裁判所は相手方の認否を待たず、自由な心証によってその成立を認定し得る。 第1 事案の概要:本件は損害賠償請求事件であり、被害者Dその他の者に…