強制執行が執行機関の行為として執行法上適法である場合であつても、債権者と債務者の実体私法上の関係において、その執行の申立ないし追行若しくは執行の結果につき債権者に故意または過失が認められて民法第七〇九条の要件に該当する限りは、その債権者は、不法行為による損害賠償の責を免れない。
強制執行による不法行為が肯定される場合。
民法709条
判旨
執行機関による強制執行が手続上適法であっても、債権者が実体法上の合意に反して故意・過失により執行を強行した場合には、不法行為(民法709条)が成立し、その使用者は使用者責任(同法715条)を負う。
問題の所在(論点)
執行手続上は適法に行われた強制執行について、実体法上の合意に違反して申し立てられた場合に、民法709条の不法行為が成立するか、およびその場合の使用者責任の成否が問題となる。
規範
1. 強制執行が執行法上適法であっても、実体私法上の関係において、債権者に執行の申立て・追行につき故意または過失が認められ、民法709条の要件を満たす限り、不法行為責任が成立する。 2. 損害額は不法行為時における目的物の客観的価格を標準とし、競売代金は損益相殺により控除される。この算定において加害者の特別な予見可能性は不要である。
重要事実
債権者である信用金庫の担当者Aは、債務者との間で競売期日の延期等を合意した。しかし、Aは直後に私的な理由から立腹し、報復として上記合意に背き、同日中に執行吏に対し競売の実施を申し入れた。これにより競売が実施され、債務者は物件の所有権を喪失した。なお、債務者は延期された期日までであれば残債務を弁済して競売を阻止することが可能であった。
あてはめ
1. Aは弁済期延期の約束をしたにもかかわらず、報復目的で故意に合意を破り競売を強行しており、債務者の権利を侵害したといえる。手続が適法でも実体法上の注意義務に反するため不法行為が成立する。 2. Aは信用金庫の業務(強制執行担当)として本件行為を行っているため、信用金庫には民法715条の使用者責任が認められる。 3. 所有権喪失という損害は不法行為(合意違反の競売申立て)により惹起されたものであり、当時の客観的価格に基づき算定されるべきである。
結論
Aには不法行為責任が成立し、信用金庫は使用者責任を負う。債務者は、物件の客観的価格から競売代金を控除した額について損害賠償を請求できる。
実務上の射程
執行法と実体法の峻別を前提としつつ、適法な執行手続が悪用された場合の実体法上の救済を認めた判例。答案では、契約上の義務違反が不法行為を構成する場面や、執行手続の形式的適法性が実体法上の違法性を阻却しないことを論ずる際に活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)1103 / 裁判年月日: 昭和42年11月2日 / 結論: 破棄差戻
被用者の取引行為がその外形からみて使用者の事業の範囲内に属すると認められる場合であつても、それが被用者の職務権限内において適法に行なわれたものではなく、かつその相手方が右の事情を知り、または少なくとも重大な過失によつてこれを知らないものであるときは、その相手方である被害者は、民法第七一五条により使用者に対してその取引行…