執行吏が過失により有体動産の差押につき作成すべき調書に差押物の評価額を記載しなかつたことによつて債務者に損害を生じた場合には国家賠償の責任が成立する。
執行吏が過失により有体動産の差押につき作成すべき調書に差押物の評価額を記載しなかつたことによつて債務者に損害を生じた場合と国家賠償責任の成否
民訴法第6編第2章第1節,執行吏執行等手続規則32条,執行吏執行等手続規則26条3号
判旨
執行吏は、有体動産の強制執行にあたり、債権者及び債務者の利益を考慮して合理的かつ適正に執行すべき義務を負い、正当な方法で差押物件を評価し、適正な価額で競落されるよう配慮・注意すべき義務がある。
問題の所在(論点)
有体動産の差押・換価手続きにおいて、執行吏は債務者の利益を保護するためにどのような注意義務を負うか。また、その義務違反が国家賠償法1条1項の「違法」な公権力の行使に該当するか。
規範
有体動産の強制執行に関する諸規定(民事訴訟法旧573条、580条、581条等)の趣旨は、債権者のみならず債務者の利益をも考慮し、強制執行を合理的かつ適正なものたらしめる点にある。したがって、執行吏は、差押物件の評価にあたっては正当かつ妥当な方法を用い、競売にあたっては特別の事情のない限り、物件が適正な価額で競落され、不当に債務者の利益を害することのないよう配慮・注意して執行すべき義務を負う。
重要事実
執行吏代理Fは、有体動産(松立木を伐採した材積約400石)の差押・競売手続きにおいて、評価および執行に関する義務を怠った。差押時の材積は約400石であったが、競落後の搬出時には295.51石であったと認定された。被上告人(執行債務者)は、この執行吏の過失により責任財産が不当に安価で執行債権者への支払に充てられたとして、国に対し損害賠償を請求した。
あてはめ
執行吏は、差押調書への評価額の記載や鑑定人による評価等の義務を負う。本件では、執行吏代理Fが適正な評価や競売における配慮を欠いたことにより、客観的な価値(400石相当)を下回る不当な価額で競落される事態を招いた。これについて、義務を尽くせなかったと言える「特別の事情」は認められない。したがって、執行吏が過失により債務者の利益保護義務を怠ったと判断されるため、被上告人に生じた損害(責任財産の不当な減少)について、国は国家賠償責任を免れない。
結論
執行吏は適正な価額で競落されるよう配慮すべき義務を負い、これに違反して債務者に損害を与えた場合、国は賠償責任を負う。
実務上の射程
公務員の職務上の義務違反が「違法」とされる場面において、個別の執行手続法が債務者の利益保護をも目的としていることを論証する際に有用である。特に、執行吏の裁量的判断が介在する場面でも、適正な評価・換価をなすべき注意義務が肯定される点に射程が及ぶ。
事件番号: 昭和28(オ)1416 / 裁判年月日: 昭和30年11月25日 / 結論: 棄却
債務者の占有する動産を差し押えたところ、第三者から、右動産は自己の所有に属し、執行意義の訴を提起した旨の通告があつたにかかわらず、右事実の真否を調査せずに、競売手続を遂行したときは、債務者は第三者の権利侵害につき過失の責を免れることはできない。