地方公共団体の消防職員が部下に対する言動等を理由として懲戒免職処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の小隊長等として消防職員を指導すべき立場にあった。 ⑵ 上記言動の中には、①採用後間もない部下に対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂をさせた上、部下が力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにして更に懸垂するよう指示したり、熱中症の症状を呈するまで訓練を繰り返させたり、体力の限界のため倒れ込んだことに対するペナルティと称して更に過酷なトレーニングをさせたりする行為や、②部下に恐怖感や屈辱感を与えたり、その人格を否定したり、その家族をも侮辱したりする発言が含まれている。 ⑶ 上記言動は、少なくとも10人の部下に対し、十数年の長期間、多数回にわたり、執拗に繰り返されたものである。 (補足意見がある。)
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動等を理由として受けた懲戒免職処分が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例
地方公務員法29条1項
判旨
消防職員による部下への長期間かつ多数回にわたるパワハラ行為は、職務の性質上不可欠な組織の規律と意思疎通を著しく乱すものであり、非違の程度は極めて重い。過去に懲戒歴がない等の事情を考慮しても、免職を選択した処分権者の判断は社会観念上著しく妥当を欠くとはいえず、裁量権の逸脱・濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
消防職員による長期かつ執拗なパワー・ハラスメントを理由とする懲戒免職処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用したものといえるか(地方公務員法29条1項)。
規範
公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は諸般の事情を考慮して処分内容を決定する裁量権を有する。その判断が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱・濫用したと認められる場合に限り、当該処分は違法となる。職場内での優越的な関係を背景とした不適切な言動については、単体での評価のみならず、行為の態様、期間、回数、被害者の多さ、及び組織の規律・秩序に及ぼした悪影響を総合的に評価すべきである。
事件番号: 令和6(行ヒ)214 / 裁判年月日: 令和7年9月2日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動を理由として停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の分…
重要事実
糸島市消防本部の係長であった被上告人は、約13年間にわたり部下少なくとも10名に対し、以下の行為を繰り返した。(1)採用間もない部下をロープで宙吊りにして懸垂を強制する、熱中症で意識を失うまで訓練を強いる等の過酷な指導。(2)「殺すぞ」「死ね」「家族もろとも侮辱する」等の人格否定的な暴言。(3)特定の派閥視や長時間の叱責による職場環境の悪化。これらにより若手職員の退職や休職が相次ぎ、多数の職員が被上告人の復職に反対する署名を提出した。消防長はこれらを理由に懲戒免職処分とした。
あてはめ
被上告人の指導は、訓練の範疇を大きく逸脱し、部下に傷害を負わせかねない極めて不適切なものである。また、発言も人格を否定し家族を侮辱する等、部下に恐怖感や屈辱感を与えるものであった。消防組織は危険な現場で緊密な意思疎通を要するため、秩序や規律の維持は極めて重要である。十数年に及ぶ執拗な行為は組織の規律を著しく乱し、若手職員の退職を招くなど悪影響は看過できない。免職が地位喪失という重大な結果を伴うことや懲戒歴がないことを考慮しても、本件各行為の非違の程度は極めて重く、免職の選択は合理性を有する。
結論
本件免職処分は裁量権の範囲内であり、適法である。原審(裁量権逸脱を認めた判断)には法令の解釈適用の誤りがあるため、破棄を免れない。
実務上の射程
職場内ハラスメントの事案において、個別の言動の悪質性だけでなく、その継続性、組織の特殊性(消防・警察等の規律重視の組織)、および組織全体に与えた実害(離職や士気低下)を重視して裁量権の適法性を肯定した。加害者の主観的動機が「悪感情」に基づく場合、教育的指導としての酌量余地が否定されやすいことも示唆している。
事件番号: 平成5(行ツ)202 / 裁判年月日: 平成7年7月6日 / 結論: 棄却
自衛官が、沖縄返還協定紛砕等を掲げて開催された政治的集会において、その制服や官職を利用してそれによる宣伝効果をねらい、不特定多数の者に対して要求書及び声明文を読み上げて、一方的かつ過激な表現をもって国の政策を公然と批判し、これに従わない態度を明らかにするとともに、自衛隊をひぼう中傷したなど判示の事実関係の下においては、…
事件番号: 令和6(行ヒ)201 / 裁判年月日: 令和7年4月17日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体が経営する自動車運送事業のバスの運転手として勤務していた職員が、運賃の着服及び禁止されていたバスの車内における電子たばこの使用を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、京都市交通局職員退職手当支給規程(昭和57年京都市交通局管理規程第5号の2)8条1項1号の規定により一般の退職手当等の全部を支給しないこと…
事件番号: 令和3(行ヒ)164 / 裁判年月日: 令和4年6月14日 / 結論: 破棄差戻
地方公共団体の職員が、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分の停職期間中に、上記暴行等の一部についての事情を知っていた同僚及び上記暴行の被害者の1人である部下に対して行った各働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の(1)、(2)など判示の事情の下においては、上記処分が裁量権の範…
事件番号: 令和4(行ヒ)7 / 裁判年月日: 令和4年9月13日 / 結論: 破棄自判
部下への暴行等の行為をした地方公共団体の消防職員が地方公務員法28条1項3号に該当するとして分限免職処分がされた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が違法であるとした原審の判断には、分限処分に係る任命権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記行為の内容は、現に刑事罰を科されたも…