地方公共団体の消防職員が部下に対する言動を理由として停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の分隊長として訓練を取り仕切る立場にあった。 ⑵ 上記言動は、採用後間もない上記部下に対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂をさせた上、同人が力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにして更に懸垂するよう指示したり、肩や頭部を叩き、胸倉をつかんで揺さぶり、突き飛ばすなどした上に、道具である敷板に複数回謝罪の言葉を述べさせるなどしたものである。 ⑶ 上記消防職員は、部下に対する暴言を理由に文書による訓告を受けていたが、上記言動を継続した。
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動を理由として受けた停職6月の懲戒処分が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例
地方公務員法29条1項、糸島市職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(平成22年糸島市条例第36号)4条1項
判旨
消防職員による部下への暴行や屈辱的な言動は、訓練の範疇を大きく逸脱する重い非違行為であり、組織の秩序を著しく乱すものである。したがって、懲戒歴のない職員に対しても、その態様の悪質性に鑑みれば、停職6月の懲戒処分を選択することは裁量権の範囲内として適法である。
問題の所在(論点)
消防職員が行ったパワーハラスメント行為に対し、懲戒の種類として最も重い「停職6月」を選択したことが、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱・濫用したといえるか(社会観念上の著しい妥当性の欠如があるか)。
規範
公務員に対する懲戒処分につき、懲戒権者は諸般の事情を考慮して、処分の成否および種類の選択に関する裁量権を有する。当該判断が、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したと認められる場合に限り、違法となる。
事件番号: 令和6(行ヒ)241 / 裁判年月日: 令和7年9月2日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動等を理由として懲戒免職処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の小隊長…
重要事実
消防隊分隊長の立場にあった被上告人は、採用間もない部下Bに対し、ロープで身体を縛り数分間宙づりにする、胸倉を掴んで突き飛ばす、ヘルメット越しに頭部を叩く、敷板に対して「ごめんなさい」と謝罪させる等の行為(本件各行為)を行った。被上告人は以前に暴言で訓告を受けていたが、懲戒処分歴はなかった。任命権者は、これらが地方公務員法29条1項の非行に当たるとして、停職6月の懲戒処分(本件処分)を下した。
あてはめ
本件各行為は、身体的苦痛のみならず強い恐怖感や屈辱感を与えるもので、訓練の範疇を大きく逸脱しており、非違の程度は重い。火災現場等で緊密な意思疎通を要する消防組織において、分隊長の立場で行われたこれらの行為は、組織の秩序や規律に看過し難い悪影響を及ぼし、職場環境を著しく悪化させた。過去に訓告を受けながら本件各行為を継続した非難可能性も高く、負傷の有無や処分歴がないことを考慮しても、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くとはいえない。
結論
本件処分は裁量権の範囲内であり適法である。原判決を破棄し、被上告人の請求を棄却する。
実務上の射程
職場内ハラスメント、特に身体的自由の拘束や人格を否定する言動を伴う事案では、結果としての傷害が発生していなくても、非違の程度を重く評価し、重い懲戒処分を是認する傾向にある。公務員の規律維持を重視する裁量判断の枠組みとして、答案上で活用すべきである。
事件番号: 令和3(行ヒ)164 / 裁判年月日: 令和4年6月14日 / 結論: 破棄差戻
地方公共団体の職員が、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分の停職期間中に、上記暴行等の一部についての事情を知っていた同僚及び上記暴行の被害者の1人である部下に対して行った各働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の(1)、(2)など判示の事情の下においては、上記処分が裁量権の範…
事件番号: 平成31(行ヒ)97 / 裁判年月日: 令和2年7月6日 / 結論: 破棄自判
市立中学校の柔道部の顧問である教諭が,①部員間で生じた暴力行為を伴ういじめにより受傷した被害生徒に対し,受診に際して医師に自招事故による旨の虚偽の説明をするよう指示したこと,②加害生徒の大会への出場を禁止する旨の校長の職務命令に従わず同生徒を出場させたこと,及び③同部のために卒業生等から寄贈され校内に設置されていた物品…
事件番号: 令和4(行ヒ)319 / 裁判年月日: 令和6年6月27日 / 結論: 破棄自判
飲酒運転等を理由とする懲戒免職処分を受けて地方公共団体の職員を退職した者が、大津市職員退職手当支給条例(昭和37年大津市条例第7号。令和元年大津市条例第25号による改正前のもの)11条1項1号の規定により一般の退職手当の全部を支給しないこととする処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下においては、同処分が…
事件番号: 平成29(行ヒ)320 / 裁判年月日: 平成30年11月6日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗においてその女性従業員の手を自らの下半身に接触させようとするなどのわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分がされた場合において,次の(1)~(5)など判示の事情の下では,上記処分に裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断には,懲戒権…