地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗においてその女性従業員の手を自らの下半身に接触させようとするなどのわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分がされた場合において,次の(1)~(5)など判示の事情の下では,上記処分に裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断には,懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 (1) 上記行為は,上記職員と上記従業員が客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた。 (2) 上記行為は,勤務時間中に市の制服を着用してされたものである上,複数の新聞で報道されるなどしており,上記地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであった。 (3) 上記職員は,以前から上記店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており,これを理由の一つとして退職した女性従業員もいた。 (4) 上記(1)の従業員が終始笑顔で行動し,上記職員から手や腕を絡められるという身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地がある。 (5) 上記従業員及び上記店舗のオーナーが上記職員の処罰を望まないとしても,それは事情聴取の負担や上記店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される。
地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗の女性従業員にわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分に裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断に違法があるとされた事例
地方公務員法29条1項,地方公務員法33条,加古川市職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(昭和28年加古川市条例第7号)4条
判旨
公務員の懲戒処分における裁量権の行使は、社会観念上著しく妥当を欠くと認められる場合に限り違法となる。勤務時間中に制服を着用して行ったわいせつ行為は、住民の信頼を大きく損なうものであり、停職6月の処分も裁量権の範囲内である。
問題の所在(論点)
勤務時間中の公務外非行を理由とする懲戒処分において、停職6月という量定が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱・濫用したものといえるか。
規範
公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して処分を行うか否か、またいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有する。その判断が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱・濫用したと認められる場合に限り、当該処分は違法となる。
事件番号: 平成31(行ヒ)97 / 裁判年月日: 令和2年7月6日 / 結論: 破棄自判
市立中学校の柔道部の顧問である教諭が,①部員間で生じた暴力行為を伴ういじめにより受傷した被害生徒に対し,受診に際して医師に自招事故による旨の虚偽の説明をするよう指示したこと,②加害生徒の大会への出場を禁止する旨の校長の職務命令に従わず同生徒を出場させたこと,及び③同部のために卒業生等から寄贈され校内に設置されていた物品…
重要事実
一般廃棄物収集運搬に従事する公務員Xは、勤務時間中に制服を着用したままコンビニを訪れ、女性従業員の指先を自らの股間に触れさせる等のわいせつな行為(行為1)を行った。Xは以前から同店で従業員を不快にさせる不適切な言動(行為2)を繰り返しており、行為1については新聞報道や記者会見も行われた。市長は、地方公務員法に基づき、条例上の上限である停職6月の懲戒処分(本件処分)を下した。
あてはめ
まず、被害者が抵抗しなかった点は、客とのトラブル回避の可能性があり同意と評価できない。次に、被害者らが処罰を望まない点も、営業への影響懸念等によるものと解され、処分の相当性を左右しない。また、行為1は客と店員という拒絶困難な関係に乗じた非難されるべき行為であり、行為2も量定において軽視できない事情である。さらに、制服着用かつ勤務時間中の非行が報道されたことで、公務に対する住民の信頼を大きく損なったといえる。これらを総合すると、本件処分は相当に重いものの、社会観念上著しく妥当を欠くとはいえない。
結論
本件処分は裁量権の範囲内にあり、適法である。原判決を破棄し、被上告人の請求を棄却する。
実務上の射程
地方公務員の公務外非行(わいせつ行為等)に関する処分量定の判断指針となる。特に「被害者の宥恕」や「刑事罰の有無」よりも、「公務の信用失墜」や「非違行為の反復性(行為2)」を重視する傾向を示しており、裁量権の幅を広く認める事情として活用できる。
事件番号: 令和3(行ヒ)164 / 裁判年月日: 令和4年6月14日 / 結論: 破棄差戻
地方公共団体の職員が、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分の停職期間中に、上記暴行等の一部についての事情を知っていた同僚及び上記暴行の被害者の1人である部下に対して行った各働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の(1)、(2)など判示の事情の下においては、上記処分が裁量権の範…
事件番号: 昭和59(行ツ)36 / 裁判年月日: 平成元年4月25日 / 結論: 棄却
一 地方公営企業労働関係法一一条一項は、同法附則四項により地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される場合を含めて、憲法二八条に違反しない。 二 市の市長部局各部門、教育委員会で多数の職員が参加して約一時間の職場放棄を行い、市立の二病院で多数の職員が参加して二四時間の同盟罷業を行つたなどの…
事件番号: 令和6(行ヒ)214 / 裁判年月日: 令和7年9月2日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動を理由として停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の分…
事件番号: 昭和29(オ)973 / 裁判年月日: 昭和32年5月10日 / 結論: その他
公務員の懲戒権者が懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決定することは、その処分が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。