市立中学校の柔道部の顧問である教諭が,①部員間で生じた暴力行為を伴ういじめにより受傷した被害生徒に対し,受診に際して医師に自招事故による旨の虚偽の説明をするよう指示したこと,②加害生徒の大会への出場を禁止する旨の校長の職務命令に従わず同生徒を出場させたこと,及び③同部のために卒業生等から寄贈され校内に設置されていた物品に係る校長からの繰り返しの撤去指示に長期間対応しなかったことを理由として,停職6月の懲戒処分がされた場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,当該処分が裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとした原審の判断には,懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 (1) 上記①に係る当該教諭の行為は,被害生徒の心情への配慮を欠くものであって,いじめを受けている生徒の心配や不安,苦痛を取り除くことを最優先として適切かつ迅速に対処すること等を求めるいじめ防止対策推進法や兵庫県いじめ防止基本方針等に反するものであり,また,重い傷害を負った被害生徒に対し誤った診断や不適切な治療が行われるおそれを生じさせるものであった。 (2) 上記②に係る当該教諭の行為は,当該いじめにおける加害生徒の行為が重大な非行であるにもかかわらず,その重大性を踏まえた適切な対応をとることなく,柔道部の活動や加害生徒の利益等を優先させるものであった。 (3) 上記③に係る当該教諭の行為は,柔道部が優秀な成績を挙げるために,学校施設の管理に関する規律や校長の度重なる指示に反したものであった。
市立中学校の柔道部の顧問である教諭が部員間のいじめにより受傷した被害生徒に対し受診に際して医師に自招事故による旨の虚偽の説明をするよう指示したこと等を理由とする停職6月の懲戒処分を違法とした原審の判断に違法があるとされた事例
地方公務員法29条1項,地方公務員法32条,地方公務員法33条,職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(昭和38年兵庫県条例第31号)5条
判旨
公立学校教諭がいじめの事実を隠蔽するために虚偽報告を指示し、校長の職務命令に違反して加害生徒を大会に出場させた等の行為に対し、停職6月の懲戒処分をすることは、懲戒権者の裁量権の範囲内であり適法である。
問題の所在(論点)
公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者が停職6月を選択した判断が、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものといえるか。
規範
懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、またいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有する。その判断は、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱・濫用したと認められる場合に限り、違法となる。
事件番号: 平成29(行ヒ)320 / 裁判年月日: 平成30年11月6日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗においてその女性従業員の手を自らの下半身に接触させようとするなどのわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分がされた場合において,次の(1)~(5)など判示の事情の下では,上記処分に裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断には,懲戒権…
重要事実
(1)教諭であるXは、柔道部内の暴行を伴ういじめを把握しながら、被害生徒に対し「階段から転んだ」という虚偽の受傷経緯を医師に説明するよう指示し、自らも虚偽の説明をした(本件非違行為1)。(2)Xは、加害生徒の大会出場を禁止する校長の職務命令に従わず、当該生徒を出場させた(本件非違行為2)。(3)Xは、校内設置物の撤去指示に長期間従わなかった(本件非違行為3)。(4)Xには過去に体罰による減給処分の前歴があった。
あてはめ
本件非違行為1は、いじめ防止対策推進法等の趣旨に反し、隠蔽工作を通じて医師の診断や学校の組織的対応を妨げ得る重大な行為であり、公務の信用を著しく失墜させる。本件非違行為2は、加害生徒の利益を優先して正当な職務命令を拒絶したものであり、非違の程度は軽視できない。本件非違行為3も併せれば、これら一連の行為は生徒の規範意識を育む教職員として不当であり、強い非難に値する。原審が指摘する「校長の指示の一貫性欠如」等の事情を考慮しても、非違の程度の重さは動かず、停職6月という量定が社会観念上著しく妥当を欠くとはいえない。
結論
本件処分は懲戒権者の裁量権の範囲内であり、適法である。したがって、処分の取消請求および国家賠償請求はいずれも棄却される。
実務上の射程
いじめの隠蔽や職務命令違反は、教職員の職責に照らし極めて重く評価される。処分基準が未策定であっても、最も重い非違行為を基礎に他の事情を加味して段階的に量定を決定する手法は合理性を有し、裁判所は懲戒権者の専門的判断を尊重する傾向にある。
事件番号: 令和6(行ヒ)214 / 裁判年月日: 令和7年9月2日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動を理由として停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の分…
事件番号: 令和3(行ヒ)164 / 裁判年月日: 令和4年6月14日 / 結論: 破棄差戻
地方公共団体の職員が、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分の停職期間中に、上記暴行等の一部についての事情を知っていた同僚及び上記暴行の被害者の1人である部下に対して行った各働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の(1)、(2)など判示の事情の下においては、上記処分が裁量権の範…
事件番号: 令和6(行ヒ)241 / 裁判年月日: 令和7年9月2日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動等を理由として懲戒免職処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の小隊長…
事件番号: 令和4(行ヒ)319 / 裁判年月日: 令和6年6月27日 / 結論: 破棄自判
飲酒運転等を理由とする懲戒免職処分を受けて地方公共団体の職員を退職した者が、大津市職員退職手当支給条例(昭和37年大津市条例第7号。令和元年大津市条例第25号による改正前のもの)11条1項1号の規定により一般の退職手当の全部を支給しないこととする処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下においては、同処分が…