飲酒運転等を理由とする懲戒免職処分を受けて地方公共団体の職員を退職した者が、大津市職員退職手当支給条例(昭和37年大津市条例第7号。令和元年大津市条例第25号による改正前のもの)11条1項1号の規定により一般の退職手当の全部を支給しないこととする処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下においては、同処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、退職手当管理機関の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記の者は、長時間にわたり相当量の飲酒をした直後、帰宅するために自動車を運転したものであり、運転を開始した直後に立体駐車場内で同自動車を駐車中の他の自動車に接触させる事故を起こしたにもかかわらず、何らの措置を講ずることもなく運転を続け、さらに、運転する自動車を道路の縁石に接触させる事故を起こしながら、そのまま同自動車を運転して帰宅した。 ⑵ 上記の者は、上記飲酒運転等の翌朝、臨場した警察官に対し、当初、上記立体駐車場内での事故の発生日時について虚偽の説明をしていた。 ⑶ 上記の者は、上記飲酒運転等の当時、上記地方公共団体の課長の職にあった。 (反対意見がある。)
飲酒運転等を理由とする懲戒免職処分を受けて地方公共団体の職員を退職した者に対してされた大津市職員退職手当支給条例(昭和37年大津市条例第7号。令和元年大津市条例第25号による改正前のもの)11条1項1号の規定による一般の退職手当の全部を支給しないこととする処分が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例
大津市職員退職手当支給条例(昭和37年大津市条例第7号。令和元年大津市条例第25号による改正前のもの)11条1項1号
判旨
懲戒免職処分を受けた職員に対する退職手当の全部支給制限処分は、管理機関の裁量に委ねられており、社会観念上著しく妥当を欠かない限り適法である。飲酒運転により物損事故を重ね、当初虚偽説明を行った管理職に対し、勤続27年の功労を考慮しても全額不支給とした判断は、裁量権の逸脱・濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
懲戒免職処分に伴う退職手当の全部支給制限処分(大津市職員退職手当支給条例11条1項1号に基づく処分)が、裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであるか。
規範
退職手当支給制限処分を行うか否か、及びその制限の程度については、退職手当管理機関の裁量に委ねられている。当該処分が違法となるのは、それが社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に限られる。判断に際しては、職務の責任、勤務状況、非違の内容・程度、経緯、事後の言動、公務への支障及び信頼への影響等を総合的に勘案すべきである。
事件番号: 令和4(行ヒ)274 / 裁判年月日: 令和5年6月27日 / 結論: 破棄自判
1 裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一の立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際にされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたこ…
重要事実
市職員(管理職・課長)であるXは、夜間に長時間飲酒した後、約5km離れた自宅へ帰るため自動車を運転した。走行中、駐車場内で他車に接触しバンパーを脱落させる第1事故を起こしたが、措置を講じず運転を継続し、さらに縁石に接触する第2事故を起こして帰宅した。翌朝、警察に対し事故発生時刻について虚偽の説明を行った。市は、Xを懲戒免職処分とした上で、本件規定に基づき一般退職手当(約1620万円)の全部を支給しない処分を行った。Xは27年余り懲戒歴なく勤続していた。
あてはめ
まず、Xの非違行為は、重大な危険を伴う飲酒運転であり、2回の事故を起こしながら運転を継続した点で態様が悪質であり、物損に留まったことを考慮しても程度は重い。次に、事後の警察への虚偽説明は不誠実な言動といえる。さらに、Xは管理職の立場にあり、私生活上の行為であっても公務の遂行に支障を及ぼし、住民の信頼を大きく損なうものである。これらの事情を重視すれば、被害弁償がなされていることや27年間の勤続功労を考慮しても、勤続の功を抹消するに足りる程度の非違があったと判断できる。したがって、市長が全部不支給としたことが社会観念上著しく妥当を欠くとはいえない。
結論
本件全部支給制限処分は、裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとはいえず、適法である。
実務上の射程
退職手当の「後払的性格」や「生活保障的性格」を考慮し全額不支給を慎重に判断すべきとした反対意見に対し、多数意見は飲酒運転の悪質性や管理職としての社会的責任・信頼失墜をより重視した。実務上、飲酒運転かつ当て逃げ等の悪質な態様がある場合、長年の勤続功労があっても全額不支給処分が維持されやすいことを示す射程を持つ。
事件番号: 令和6(行ヒ)201 / 裁判年月日: 令和7年4月17日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体が経営する自動車運送事業のバスの運転手として勤務していた職員が、運賃の着服及び禁止されていたバスの車内における電子たばこの使用を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、京都市交通局職員退職手当支給規程(昭和57年京都市交通局管理規程第5号の2)8条1項1号の規定により一般の退職手当等の全部を支給しないこと…
事件番号: 令和6(行ヒ)214 / 裁判年月日: 令和7年9月2日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動を理由として停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の分…
事件番号: 令和3(行ヒ)164 / 裁判年月日: 令和4年6月14日 / 結論: 破棄差戻
地方公共団体の職員が、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分の停職期間中に、上記暴行等の一部についての事情を知っていた同僚及び上記暴行の被害者の1人である部下に対して行った各働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の(1)、(2)など判示の事情の下においては、上記処分が裁量権の範…
事件番号: 令和6(行ヒ)241 / 裁判年月日: 令和7年9月2日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動等を理由として懲戒免職処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の小隊長…