1 裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一の立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際にされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべきである。 退職手当支給制限処分:職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分 2 酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けて公立学校教員を退職した者が、職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により、県の教育委員会から、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分に係る上記教育委員会の判断は、上記の者が管理職ではなく、上記懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間にわたって誠実に勤務してきており、反省の情を示していること等を勘案しても、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない。 ⑴ 上記酒気帯び運転の態様は、自家用車で酒席に赴き、長時間にわたって相当量の飲酒をした直後に、同自家用車を運転して帰宅しようとしたところ、運転開始から間もなく、過失により走行中の車両と衝突し、同車両に物的損害を生じさせる事故を起こすというものであった。 ⑵ 上記の者が教諭として勤務していた高等学校は、上記酒気帯び運転の後、生徒やその保護者への説明のため、集会を開くなどの対応を余儀なくされた。 ⑶ 上記教育委員会は、上記酒気帯び運転の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、複数回にわたり服務規律の確保を求める通知等を発出するなどし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていた。 (2につき、反対意見がある。)
1 職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分の適否に関する裁判所の審査 2 職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により公立学校教員を退職した者に対してされた一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分に係る県の教育委員会の判断が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえないとされた事例
職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号
判旨
懲戒免職に伴う退職手当の全部支給制限処分は、公務の信頼回復等の公益目的と給与後払的性格等の私益を比較考量する行政庁の広範な裁量に属し、社会観念上著しく妥当を欠かない限り適法である。飲酒運転が相次ぐ中での厳格な注意喚起を背景とした本件処分は、長年の誠実な勤務等の事情を考慮しても裁量権の逸脱・濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
事件番号: 令和4(行ヒ)319 / 裁判年月日: 令和6年6月27日 / 結論: 破棄自判
飲酒運転等を理由とする懲戒免職処分を受けて地方公共団体の職員を退職した者が、大津市職員退職手当支給条例(昭和37年大津市条例第7号。令和元年大津市条例第25号による改正前のもの)11条1項1号の規定により一般の退職手当の全部を支給しないこととする処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下においては、同処分が…
懲戒免職処分を受けた職員に対し、退職手当の全部を支給しないとする処分が、退職手当支給制限規定の趣旨に照らし、行政庁の裁量権の範囲を逸脱・濫用したといえるか。
規範
退職手当は、勤続報償的性格を中心に、給与の後払的性格や生活保障的性格も有する。退職手当支給制限規定は、諸般の事情を総合的に勘案し、給与の後払的性格等を手厚く考慮してもなお、退職者の勤続の功を抹消・減殺するに足りる事情がある場合に、全部又は一部を支給しないことができる旨を定めたものである。その判断は、職員の職務実情に精通した行政庁の裁量に委ねられており、判断が社会観念上著しく妥当を欠き裁量権の範囲を逸脱又は濫用したと認められる場合に限り、違法となる。また、同規定は公務に対する信頼への影響等の公益的要素を軽視すべきではなく、全部不支給を例外的な場合に限定する趣旨でもない。
重要事実
公立高校教諭であるXは、飲酒後に自家用車を運転し、物損事故を起こして酒気帯び運転で逮捕された。当時、県教育委員会は飲酒運転の続発を受け、厳格な処分方針を周知し注意喚起を行っていた。Xは30年間誠実に勤務し懲戒歴もなかったが、県教委はXを懲戒免職とした上、本件規定に基づき退職手当約1724万円の全部を支給しない処分(本件処分)を下した。原審は、Xが管理職でなく反省していることや退職後の生活保障の観点から、全部不支給は裁量を逸脱すると判断した。
あてはめ
まず、Xの非違行為は酒席に自ら車で赴き相当量の飲酒直後に運転したものであり、重大な危険を伴う悪質なものである。次に、教諭という立場での犯罪行為は生徒や保護者への説明を要するなど公務の信頼を著しく失墜させた。さらに、県教委が事前に厳格な対応を繰り返し通知していた中で行われた点は、抑止の観点から重視されるべきである。Xが管理職でなく、30年間の誠実な勤務や反省の情があるという事情を考慮しても、上記のような非違行為の重大性や公務への悪影響に鑑みれば、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くとはいえない。
結論
本件全部支給制限処分は、裁量権の範囲内であり適法である。したがって、処分の取消しを一部認めた原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
飲酒運転に対する厳しい社会的評価と公務員の規律維持の必要性を重視し、退職手当の「生活保障的性格」を理由とした裁量統制を限定的に解した。公務員に限らず、退職金規定における不支給条項の適用場面での裁量判断の指針となる。また、事前の厳格な注意喚起が裁量判断の正当化要素として機能することも示唆している。
事件番号: 令和6(行ヒ)201 / 裁判年月日: 令和7年4月17日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体が経営する自動車運送事業のバスの運転手として勤務していた職員が、運賃の着服及び禁止されていたバスの車内における電子たばこの使用を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、京都市交通局職員退職手当支給規程(昭和57年京都市交通局管理規程第5号の2)8条1項1号の規定により一般の退職手当等の全部を支給しないこと…
事件番号: 昭和29(オ)973 / 裁判年月日: 昭和32年5月10日 / 結論: その他
公務員の懲戒権者が懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決定することは、その処分が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。
事件番号: 令和3(行ヒ)164 / 裁判年月日: 令和4年6月14日 / 結論: 破棄差戻
地方公共団体の職員が、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分の停職期間中に、上記暴行等の一部についての事情を知っていた同僚及び上記暴行の被害者の1人である部下に対して行った各働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の(1)、(2)など判示の事情の下においては、上記処分が裁量権の範…
事件番号: 令和6(行ヒ)241 / 裁判年月日: 令和7年9月2日 / 結論: 破棄自判
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動等を理由として懲戒免職処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の小隊長…