公務員の懲戒権者が懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決定することは、その処分が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。
公務員の懲戒処分と懲戒権者の裁量権
警察法(昭和29年法律第162号による改正前のもの)48条,警察法(昭和29年法律第162号による改正前のもの)50条1項,大阪市警視庁設置等に関する条例10条
判旨
公務員に対する懲戒処分は原則として懲戒権者の裁量に委ねられ、事実上の根拠を欠くか、又は社会観念上著しく妥当を欠き裁量権の範囲を超えない限り、裁判所がこれを取り消すことはできない。
問題の所在(論点)
公務員に対する懲戒免職処分の適法性(裁量権の逸脱・濫用)の判断基準。
規範
公務員に対する懲戒処分は、公務員としての義務違反等に対し、秩序保持等の目的で科される行政監督権の作用である。したがって、懲戒権者が処分の要否及び種類を選択することはその裁量に任されており、(1)処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合、又は(2)社会観念上著しく妥当を欠き裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、適法となる。
重要事実
大阪市警視庁の警部補であった被上告人は、知人の妻との不適切な交際により肉体関係を疑われ、かつ、相手方が詐欺師等であることを知りながら金品の貸借を行うなど、警察吏員としての襟度を欠く行為があったとして懲戒免職処分を受けた。下級審は懲戒事由の存在を認めつつも、従前の勤務成績や改悛の情を考慮し、免職は重きに失し裁量権を逸脱するとして処分を取り消したため、上告人が上告した。
あてはめ
本件における被上告人の行為は、警察官としての職務上の義務違反やふさわしくない非行に該当し、本件処分が全く事実上の根拠に基づかないものとはいえない。また、本件処分は条例等に基づく公正な審査委員会の勧告を経て行われており、被上告人の非行の内容に照らせば、懲戒免職を選択したことが社会観念上著しく妥当を欠くものとは断定できない。したがって、懲戒権者の裁量権の範囲内にあるといえる。
結論
本件懲戒免職処分は適法である。裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとして処分を取り消した原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
行政庁の広範な裁量を認める判例として、行政法における裁量権の逸脱・濫用(行政事件訴訟法30条)の判断枠組みを示す際に引用される。特に公務員の懲戒処分に関しては、裁判所による審査が消極的なものに留まることを示す重要な規範である。ただし、後の神戸税関事件判決等により、裁量判断のプロセスや比例原則の観点からより詳細な審査が行われる傾向にある点には注意を要する。
事件番号: 昭和27(オ)991 / 裁判年月日: 昭和32年3月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の懲戒事由に基づく懲戒免職処分において、その一部の事由のみで処分を正当化できる場合には、他の事由の適法性や合憲性を審究するまでもなく、当該処分は適法である。 第1 事案の概要:警察官である上告人A2は、同僚と文芸雑誌を発行するに際し、上司の事前検閲を受けなかった事実(イ)、及びその他の懲戒事由…
事件番号: 昭和59(行ツ)36 / 裁判年月日: 平成元年4月25日 / 結論: 棄却
一 地方公営企業労働関係法一一条一項は、同法附則四項により地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される場合を含めて、憲法二八条に違反しない。 二 市の市長部局各部門、教育委員会で多数の職員が参加して約一時間の職場放棄を行い、市立の二病院で多数の職員が参加して二四時間の同盟罷業を行つたなどの…
事件番号: 平成7(行ツ)132 / 裁判年月日: 平成12年3月17日 / 結論: 棄却
昭和五七年度の人事院勧告の不実施を契機としてその完全実施等の要求を掲げて行われたストライキに関与したことを理由としてされた農林水産省職員らに対する停職六月ないし三月の各懲戒処分は、右ストライキが当局の事前警告を無視して二度にわたり敢行された大規模なものであり、右職員らが、右ストライキを指令した労働組合の幹部としてその実…