被保険者が自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により傷害を被った時に既に存在していた身体の障害又は疾病の影響により、上記傷害が重大となった場合には、保険会社は、その影響がなかったときに相当する金額を支払う旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に対する加害行為と加害行為前から存在していた被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した事案について、裁判所が、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、上記疾患をしんしゃくし、その額を減額する場合において、上記疾患が上記定めにいう身体の障害又は疾病に当たるときは、被害者に対して人身傷害保険金を支払った保険会社は、支払った人身傷害保険金の額と上記の減額をした後の損害額のうちいずれか少ない額を限度として被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。 (補足意見がある。)
裁判所が自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に対する損害賠償の額を定めるに当たり民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して被害者に対する加害行為前から存在していた被害者の疾患をしんしゃくしその額を減額する場合における上記条項に基づき人身傷害保険金を支払った保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲
保険法25条、民法91条、民法709条、民法722条2項
判旨
既存の身体疾患による減額(素因減額)がされる場合、本件限定支払条項のある人身傷害保険金は、疾患による影響を除いた損害を填補するものと解され、保険会社は「支払保険金額」と「素因減額後の損害額」のいずれか少ない額を限度として賠償請求権を代位取得する。
問題の所在(論点)
被害者の疾患をしんしゃくして素因減額がされる場合において、限定支払条項のある人身傷害保険金を支払った保険会社が、保険代位(保険法25条1項、約款規定)によって取得する損害賠償請求権の範囲。
規範
保険会社が取得する代位の範囲は保険約款の定めに依拠する。既存疾患による影響を保険対象から除外する趣旨の「限定支払条項」がある場合、支払われた保険金は疾患による影響を除いた損害を填補する目的で支払われるものといえる。したがって、民法722条2項の類推適用により素因減額がなされる際、当該疾患が限定支払条項に該当するときは、保険会社は「支払った保険金額」と「素因減額後の損害額」のうち、いずれか少ない額を限度として、被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。この結論は、保険会社が実際に保険金支払時に限定支払条項による減額を行ったか否かに左右されない。
重要事実
上告人は駐車場内の陥没による衝撃で腰椎椎間板ヘルニアの傷害を負ったが、事故前から椎間板の変性(既存疾患)があり、損害賠償請求訴訟において素因減額(3割)と過失相殺(2割)が認められた。上告人は、既存疾患による損害を保険対象外とする「限定支払条項」を含む自動車保険から、同条項による減額を受けずに人身傷害保険金を受領した。訴外保険会社が代位取得する範囲につき、過失相殺と同様に「素因減額前の損害額」を基準に計算すべき(いわゆる訴外分方式)か、「素因減額後の損害額」を基準とすべきかが争点となった。
あてはめ
本件約款には既存疾患の影響を除外する限定支払条項があるため、本件保険金は疾患による影響を除いた損害を填補するものと解される。素因減額は、加害行為と疾患が共に原因となった場合における損害の発生そのものに係る局面の問題であり、公平な分担のための調整を図る過失相殺とは局面を異にする。よって、過失相殺の場合(最判平成24年2月20日)とは異なり、まず素因減額後の損害額を基準として、それと支払保険金額を比較して代位範囲を画定すべきである。本件では、素因減額後の損害額の方が支払保険金額より少ないため、当該損害額を限度として保険会社が請求権を代位取得する。
結論
保険会社は、素因減額後の損害額(と支払保険金額のいずれか少ない額)を限度として請求権を代位取得する。本件では、上告人の被上告人に対する損害賠償請求権は代位により消滅したとして、上告人の請求を棄却した原審の判断は正当である。
実務上の射程
人身傷害保険金と過失相殺の関係を示した最判平成24年(訴外分方式)との区別に注意が必要である。素因減額は「損害の発生そのもの」に関するため、過失相殺のような「被害者の総損害が填補されるまで加害者に請求できる」という論理は及ばず、限定支払条項がある限り、素因減額後の金額が代位の基準となる。
事件番号: 令和4(受)648 / 裁判年月日: 令和5年10月16日 / 結論: 破棄自判
被害者を被保険者とする人身傷害条項のある自動車保険契約を締結していた保険会社が、上記被害者の遺族に対し、上記条項の適用対象となる事故によって生じた損害について、人身傷害保険金として給付義務を負うとされている人身傷害保険金額に相当する額の金員を支払った場合、上記金員について作成された仮協定書に自動車損害賠償責任保険からの…
事件番号: 平成20(受)12 / 裁判年月日: 平成20年10月7日 / 結論: 破棄差戻
Yが運転する車両との衝突事故により傷害を負ったXが,Xの父が保険会社との間で締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき保険金の支払を受けた場合において,上記保険金の支払をもってYの損害賠償債務の履行と同視することはできないこと,上記保険契約にはいわゆる代位に関する約定があり,上記保険会社は上記保険金の支払によ…