業務上の過重負荷と従業員Aの基礎疾患とが共に原因となってAが急性心筋虚血により死亡した場合において,(1)Aは,虚血性心疾患の危険因子となる家族性高コレステロール血症にり患し,冠状動脈の2枝に障害があり,陳旧性心筋梗塞の合併症を有していたこと,(2)使用者は,原審(控訴審)において初めて過失相殺の主張をしたが,第1審の段階ではAが家族性高コレステロール血症にり患していた事実を認識していなかったことがうかがわれることなど判示の事情の下では,使用者の不法行為を理由とする損害賠償の額を定めるに当たり,上記過失相殺の主張が訴訟上の信義則に反するとして民法722条2項の規定を類推適用しなかった原審の判断には,違法がある。
業務上の過重負荷と基礎疾患とが共に原因となって従業員が死亡した場合において,使用者の不法行為を理由とする損害賠償の額を定めるに当たり,使用者による過失相殺の主張が訴訟上の信義則に反するとして民法722条2項の規定を類推適用しなかった原審の判断に違法があるとされた事例
民法722条2項,民訴法2条
判旨
不法行為に基づき損害賠償の額を定めるに当たり、被害者の疾患を理由とする民法722条2項の類推適用は、賠償義務者からの主張がなくても裁判所が職権で行うことができる。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償額の算定において、被害者の基礎疾患を参酌する民法722条2項の類推適用を行うにあたり、当事者による主張(抗弁)が必要か。また、第1審で過失相殺を主張しない旨釈明した後に控訴審で類推適用を主張することが訴訟上の信義則に反するか。
規範
被害者に対する加害行為と、加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合、疾患の態様・程度等に照らし損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は民法722条2項を類推適用して被害者の疾患を参酌できる。この類推適用については、賠償義務者からの主張がなくとも、裁判所は訴訟に現れた資料に基づき職権で行うことができる。
重要事実
上告人の従業員Aは、冠状動脈に障害がある基礎疾患(家族性高コレステロール血症等)を有していたが、業務上のストレス等が原因で急性心筋虚血により死亡した。第1審で上告人は過失相殺を主張しない旨釈明していたが、控訴審においてAの基礎疾患を理由とする民法722条2項の類推適用による減額を主張した。原審は、当該主張を信義則に反し許されないとし、主張がない以上類推適用はできないと判断した。
あてはめ
被害者の疾患参酌は損害の公平な分担を目的とするものであり、通常の過失相殺と同様、職権による参酌が可能である。本件では、Aの疾患は家族性高コレステロール血症等、重大な基礎疾患であり、これを無視して全損害を賠償させるのは公平を欠く。また、上告人は第1審段階で疾患の事実を認識していなかった事情が伺えるため、控訴審での主張転換も直ちに信義則に反するとはいえない。したがって、主張の有無にかかわらず職権で疾患を考慮すべきであった。
結論
民法722条2項の類推適用に賠償義務者の主張は不要であり、職権で行うことができる。本件の疾患の内容に照らせば、これを参酌しない判断には法令の解釈適用の誤りがある。
実務上の射程
被害者の素因(疾患等)による減額が問題となる事案において、被告側の主張が不十分であっても、証拠資料から素因が明らかな場合には裁判所に対し職権発動を促す法的構成として活用できる。
事件番号: 令和5(受)1838 / 裁判年月日: 令和7年7月4日 / 結論: 棄却
被保険者が自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により傷害を被った時に既に存在していた身体の障害又は疾病の影響により、上記傷害が重大となった場合には、保険会社は、その影響がなかったときに相当する金額を支払う旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に対する加害行為と加害行為…