一 不法行為により傷害を被った被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有しており、これが、加害行為と競合して傷害を発生させ、又は損害の拡大に寄与したとしても、右身体的特徴が疾患に当たらないときは、特段の事情がない限り、これを損害賠償の額を定めるに当たりしんしゃくすることはできない。 二 交通事故により傷害を被った被害者に首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症があるという身体的特徴があり、これが、交通事故と競合して被害者の頸椎捻挫等の傷害を発生させ、又は損害の拡大に寄与したとしても、これを損害賠償の額を定めるに当たりしんしゃくすることはできない。
一 不法行為により傷害を被ったことに基づく損害賠償の額を定めるに当たり被害者の身体的特徴をしんしゃくすることの可否 二 交通事故により傷害を被ったことに基づく損害賠償の額を定めるに当たり首が長いという被害者の身体的特徴をしんしゃくすることはできないとされた事例
民法709条,民法722条2項
判旨
被害者の身体的特徴が「疾患」に当たらない場合、特段の事情がない限り、損害賠償額の算定において民法722条2項を類推適用して斟酌することはできない。
問題の所在(論点)
被害者が有する「平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴」が、民法722条2項(過失相殺)の類推適用による減額の対象となるか。
規範
損害の公平な分担という見地から、被害者の疾患が損害の発生・拡大に寄与した場合は民法722条2項を類推適用できる。しかし、身体的特徴が「疾患」に当たらない場合は、原則として斟酌できない。人の体格や体質には個体差があるのが当然であり、通常人に比してより慎重な行動が求められるような著しくかけ離れた特徴(極端な肥満等)でない限り、個体差の範囲内として当然に存在が予定されているからである。
重要事実
事件番号: 平成5(オ)1507 / 裁判年月日: 平成5年12月16日
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求において、被害者の身体的特徴が疾患に当たらない場合であっても、それが平均的な体格から著しく外れ、損害の発生や拡大に寄与したときは、民法722条2項を類推適用して賠償額を減額できる。 第1 事案の概要:被害者は、首が細く長いという身体的特徴を有していた。交通事故による追突…
上告人は、被上告人運転の車両に追突され、頸椎捻挫等の傷害を負った。上告人は平均的体格に比して「首が長く、多少の頸椎不安定症がある」という身体的特徴を有しており、これが疾患(バレリュー症候群等)の発生や悪化に寄与した。原審は、この身体的特徴および心因的要素を考慮し、民法722条2項を類推適用して賠償額を4割減額した。
あてはめ
上告人の「首が長く、多少の頸椎不安定症がある」という特徴は、それ自体が疾患に該当するものではない。また、このような特徴を持つ者が一般に負傷しやすいものとして特段に慎重な行動を要請されるような事情も認められない。したがって、本件の特徴は個体差の範囲内であり、加害者が賠償すべき損害額を定めるにあたって考慮すべき「特段の事情」には当たらない。これを斟酌した原審の判断は法令の解釈適用を誤っている。
結論
被害者の身体的特徴(首が長いこと等)が疾患に当たらない以上、損害賠償額の算定においてこれを斟酌することはできない。
実務上の射程
素因減額の可否について、「疾患」と「身体的特徴(個体差)」を明確に区別した。答案上は、まず「疾患」に当たるかを検討し、当たらない場合は「通常人に比してより慎重な行動が求められるか」という基準で特段の事情を否定し、減額を認めない論理構成をとるべきである。
事件番号: 昭和63(オ)1094 / 裁判年月日: 平成4年6月25日 / 結論: 棄却
被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用して、被害者の疾患をしんしゃくすることができる。
事件番号: 昭和44(オ)912 / 裁判年月日: 昭和44年11月13日
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求において、被害者の持病や身体的特徴が損害の発生や拡大に寄与した場合、特段の事情がない限り、公平の理念に基づき民法722条2項を類推適用して賠償額を減額することができる。 第1 事案の概要:被害者は、加害者の運転する車両に追突される事故に遭った。被害者には事故前から、身体…
事件番号: 令和5(受)1838 / 裁判年月日: 令和7年7月4日 / 結論: 棄却
被保険者が自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により傷害を被った時に既に存在していた身体の障害又は疾病の影響により、上記傷害が重大となった場合には、保険会社は、その影響がなかったときに相当する金額を支払う旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に対する加害行為と加害行為…