Yが運転する車両との衝突事故により傷害を負ったXが,Xの父が保険会社との間で締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき保険金の支払を受けた場合において,上記保険金の支払をもってYの損害賠償債務の履行と同視することはできないこと,上記保険契約にはいわゆる代位に関する約定があり,上記保険会社は上記保険金の支払によってXのYに対する損害賠償請求権の一部を代位する可能性があるが,原審が確定した事実関係からは,上記条項を含む上記保険契約の具体的内容等が明らかではないことなど判示の事情の下では,上記事故によるXの人的損害についてYが賠償すべき額を算定するに当たり,上記保険契約の具体的内容等について審理判断することなく,Xの過失割合による減額をした残損害額から上記保険金の額を控除した原審の判断には,違法がある。
交通事故の加害者Yが被害者Xに賠償すべき人的損害の額の算定に当たり,Xの父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づきXが支払を受けた保険金の額を控除した原審の判断に違法があるとされた事例
民法709条,民法722条2項,商法662条
判旨
人身傷害補償保険金の支払を受けた被保険者の加害者に対する損害賠償請求権は、保険代位の約定がある場合であっても、当然に支払額全額が消滅するわけではない。保険会社が代位取得する範囲は、保険契約の具体的内容や当事者間の合意に基づき、過失相殺後の損害額を基準に慎重に審理・判断されるべきである。
問題の所在(論点)
被害者が人身傷害補償保険金を受領した場合に、その全額を加害者の損害賠償額から控除できるか。保険代位の成否とその範囲をどのように判断すべきか。
規範
人身傷害補償保険は、被害者の実損害を填補する性質を有するが、保険金の支払が直ちに加害者の損害賠償債務の履行と同視されるものではない。保険者が支払った保険金の額の限度で被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得するか否か、及びその範囲については、保険契約における代位約定の具体的内容や、被害者と保険者との間の合意の有無・効力を踏まえて個別具体的に決定される。
重要事実
自転車を運転中の上告人(当時12歳)と被上告人運転の自動車が衝突し、上告人が重傷を負った。過失割合は双方5割とされた。上告人の総損害額は約1億7382万円であった。上告人は、父親が契約していた保険会社の「人身傷害補償条項」に基づき約567万円の支払を受けた。原審は、過失相殺後の損害額から、この保険金全額を控除して賠償額を算定した。
あてはめ
本件保険金は加害者の債務履行と同視できず、支払によって直ちに同額の損害賠償請求権が消滅するわけではない。代位約定がある場合、保険者が権利を取得する限度で被害者の権利は失われるが、原審は本件保険契約の具体的内容(代位の成否・範囲)を十分に審理していない。また、上告人は「保険金のうち加害者の過失割合分のみを代位取得する」という合意があったと主張しているが、原審はこの合意の有無についても審理を尽くしていない。
結論
保険金の支払により当然に全額が控除されるとした原審の判断には審理不尽・法令解釈の誤りがある。保険契約の内容や合意の有無を再審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
人身傷害補償保険金と損害賠償請求の調整に関するリーディングケース。答案上は、保険金が過失相殺「前」の損害額に充当されるのか、「後」の損害額から控除されるのかという計算順序の論点(いわゆる「訴訟基準差額説」等)と関連して、保険契約の解釈が重要であることを示す際に用いる。
事件番号: 平成22(受)2035 / 裁判年月日: 平成24年5月29日 / 結論: 破棄差戻
保険会社は保険金請求権者の権利を害さない範囲内に限り保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害補償条項の被保険者である被害者に過失がある場合において,上記条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺…
事件番号: 令和5(受)1838 / 裁判年月日: 令和7年7月4日 / 結論: 棄却
被保険者が自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により傷害を被った時に既に存在していた身体の障害又は疾病の影響により、上記傷害が重大となった場合には、保険会社は、その影響がなかったときに相当する金額を支払う旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に対する加害行為と加害行為…