国民健康保険の被保険者である交通事故の被害者が、保険者から療養の給付を受けるのに先立って、自動車損害賠償保障法一六条一項の規定に基づき損害賠償額の支払を受けた場合には、保険会社が支払に当たって算定した損害の内訳のいかんにかかわらず、右被保険者の第三者に対する損害賠償請求権は右支払に応じて消滅し、右保険者は、国民健康保険法六四条一項の規定に基づき、療養の給付の時に残存する額を限度として損害賠償請求権を代位取得する。
国民健康保険の保険者からの療養の給付に先立って自動車損害賠償保障法一六条一項の規定に基づく損害賠償額の支払がされた場合に右保険者が国民健康保険法六四条一項の規定に基づき代位取得する損害賠償請求権の額
国民健康保険法64条,自動車損害賠償保障法16条1項
判旨
国民健康保険の保険者による代位取得(同法64条1項)は、療養の給付時に損害賠償請求権が残存していることを前提とするため、給付に先立ち支払われた損害賠償額(自賠責の仮渡金を含む)はその内訳にかかわらず請求権全体を消滅させ、保険者は残額の限度でのみ代位する。
問題の所在(論点)
療養の給付に先立って、あるいは給付の期間中に、自賠責保険から損害賠償金が支払われた場合、国民健康保険法64条1項に基づく保険者の代位取得の範囲はどのように決定されるか。特に、支払の内訳に療養費が含まれていない場合や仮渡金の扱いが問題となる。
規範
1. 国民健康保険法64条1項に基づく損害賠償請求権の代位取得は、療養の給付が行われた都度、当然に発生する。 2. ただし、同規定は給付時に賠償請求権が存在することを前提とするため、給付に先立って第三者から損害賠償がなされた場合、請求権はその価額の限度で消滅し、保険者は残存額の限度でこれを代位取得する。 3. 自賠責保険金(仮渡金を含む)の支払は、身体傷害から生じた損害賠償請求権全体を対象とするものであり、支払時に示された計算上の内訳にかかわらず、その支払額に応じて損害賠償請求権を消滅させる。
事件番号: 平成20(受)12 / 裁判年月日: 平成20年10月7日 / 結論: 破棄差戻
Yが運転する車両との衝突事故により傷害を負ったXが,Xの父が保険会社との間で締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき保険金の支払を受けた場合において,上記保険金の支払をもってYの損害賠償債務の履行と同視することはできないこと,上記保険契約にはいわゆる代位に関する約定があり,上記保険会社は上記保険金の支払によ…
重要事実
被害者Dは上告人の運転する車と衝突し負傷した。被上告人(保険者)はDに対し、国民健康保険に基づく療養の給付(保険者負担分67万7355円)を行った。一方でDは、自賠責保険から仮渡金20万円を含む計120万円の支払を受けた。この120万円の算定内訳には療養の給付に関する費用は含まれていなかった。また、本件事故の過失割合はDが7割、上告人が3割であった。被上告人は、過失相殺後の20万3206円についてDの上告人に対する請求権を代位取得したとして訴えを提起した。
あてはめ
1. 自賠責保険から支払われた120万円(仮渡金を含む)は、事故による身体傷害から生じた損害賠償請求権全体を対象とするものであり、内訳のいかんにかかわらず、支払の都度、対応する損害賠償請求権を消滅させる。 2. したがって、被上告人が代位取得できるのは、療養の給付を行った各時点において、既になされた賠償金の支払(120万円の各内訳分)を控除してもなお残存している損害賠償請求権の範囲に限定される。 3. 原審は、支払の内訳に療養費が含まれていないことや仮渡金の性質を理由に請求権が消滅していないとしたが、これは上記規範に照らし誤りである。
結論
被上告人が代位取得する額を算出するには、損害賠償請求権の総額から、保険者負担額(過失相殺後)と既払の賠償額を時系列に沿って順次控除し、給付の都度、請求権が残存しているかを確認すべきである。本件ではその審理が尽くされていないため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
社会保険代位と第三者弁済・賠償の前後関係を整理する際のリーディングケースである。答案上では、保険給付と賠償金の支払が並行して行われる場合、時系列に沿った「残存債権の有無」の検討が必要であることを示す際に引用する。特に、自賠責保険金の「内訳」に拘束されず、債権全体を消滅させるという点は実務上極めて重要である。
事件番号: 平成22(受)2035 / 裁判年月日: 平成24年5月29日 / 結論: 破棄差戻
保険会社は保険金請求権者の権利を害さない範囲内に限り保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害補償条項の被保険者である被害者に過失がある場合において,上記条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺…