第一審で主張されなかつた事実であつても、第一審判決事実摘示に右の事実が主張された旨記載され、控訴審の口頭弁論期日において第一審の口頭弁論の結果を陳述するに際し「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」旨弁論した場合は、右の事実は控訴審の口頭弁論で陳述されたことになる。
第一審で主張されなかつた事実が第一審判決事実摘示に記載され控訴審において「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」旨弁論した場合と右弁論の意味
民訴法186条,民訴法377条
判旨
第一審で主張されなかった事実でも、第一審判決の事実摘示に記載され、控訴審で「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」旨弁論された場合は、控訴審の弁論として構成される。したがって、裁判所が当該主張を判断しないことは、判決に影響を及ぼす判断遺脱の違法となる。
問題の所在(論点)
第一審で現実に主張されていない事実が判決書の事実摘示に記載されている場合、控訴審における「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」との引用弁論によって、当該事実に係る主張が控訴審の審理対象(口頭弁論の内容)に含まれるか。
規範
第一審で実際には主張されなかった事実であっても、第一審判決の事実摘示にその事実が主張された旨の記載があり、かつ控訴審の口頭弁論期日において当事者が「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」旨の弁論を行った場合には、当該事実は控訴審の口頭弁論において有効に陳述されたものと解すべきである。
重要事実
被上告人(妻)が共同連帯保証人である上告人に対し、代位弁済に基づく求償権を請求した事案。上告人は第一審の口頭弁論では抗弁を主張しなかったが、第一審判決には「上告人が本件保証の際、被上告人から求償権を行使しない旨の約束を得た」という抗弁の主張があった旨が誤って(あるいは先行して)記載されていた。控訴審の第1回口頭弁論において、双方は「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」と弁論したが、原審(控訴審)はこの求償権放棄の抗弁について何ら判断を示さずに請求を認容した。
あてはめ
本件では、第一審判決に上告人の求償権放棄の抗弁が記載されており、上告人は控訴審において当該判決の事実摘示を引用する形で弁論を行っている。この「引用弁論」により、上告人の抗弁は控訴審における口頭弁論の内容となったといえる。それにもかかわらず、原審がこの主張について判断を遺脱したことは、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな違法である。原審は、当該抗弁の成否について審理・判断を尽くすべきであった。
結論
控訴審において引用弁論がなされた以上、第一審判決に記載された事実は控訴審の主張となる。これに判断を与えなかった原判決には判断遺脱の違法があるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
引用弁論(民訴規則152条参照)の対象に「事実摘示の誤り」が含まれる場合の処理を示す。答案上は、判断遺脱(民訴法338条1項9号参照)や、控訴審における審理範囲を確定する際の論拠として利用できる。特に第一審で主張を失念した事項が判決書に紛れ込んでいた際、控訴審でこれを有効な主張として「拾う」ためのテクニック的な規範として機能する。
事件番号: 昭和58(オ)881 / 裁判年月日: 昭和61年2月20日 / 結論: 破棄差戻
代位弁済者が債権者から代位取得した原債権又はその連帯保証債権の給付を求める訴訟において、裁判所が請求を認容する場合には、求償権の額が原債権の額を常に上回るものと認められる特段の事情のない限り、主文において、請求を認容する限度として求償権を表示すべきである。