都道府県警察所属の警部補が自殺した場合において、次の⑴~⑹など判示の事情の下では、当該都道府県警察を置く都道府県は、上記警部補の上司らが上記警部補の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したことを理由として国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。 ⑴ 上記警部補の自殺直前の1か月間における時間外勤務時間数は、その前の1か月間における約43時間から、その倍以上に増加して112時間を超えるに至っており、上記警部補が自殺直前の時期に行っていた業務の量は、従前から行っていた業務に相当程度の負荷を伴う複数の業務が加わることによって大きく増加していた。 ⑵ 上記警部補は、自殺直前の1か月間に、僅か1日の休みを挟んで14日間もの連続勤務を2回にわたり行っており、これらの連続勤務の中には、拘束時間が24時間に及ぶ当直の勤務がそれぞれ5回含まれていた上、上記警部補は、各当直明けの非番の日にも相当の時間の勤務を行った。 ⑶ 上記警部補が自殺の当時発症していたうつ病エピソードについて、上記警部補が自殺直前の時期に行っていた業務のほかには、その発症に寄与したと解すべき事情はうかがわれない。 ⑷ 上記上司らは、上記警部補について上記の複数の業務が加わったことを当然に把握している立場にあった上、上記警部補が勤務する交番の勤務日誌を閲覧し、上記上司らのうち1人は上記警部補から時間外勤務実績報告書の提出も受けていた。 ⑸ 上記上司らのうち1人は、上記警部補が自殺の3か月ほど前に受けたストレス診断で最低評価となっていたことを知っていた。 ⑹ 上記上司らは、上記警部補の負担を軽減するための具体的な措置を講じていない。 (補足意見がある。)
都道府県警察所属の警部補が自殺した場合において、当該都道府県警察を置く都道府県が、上記警部補の上司らが上記警部補の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したことを理由として国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うとされた事例
国家賠償法1条1項
判旨
警察官の自殺に関し、都道府県が国家賠償法1条1項の責任を負うか否かは、業務に係る諸般の事情を総合考慮して判断すべきであり、公務災害の認定基準を参酌しつつも、その要件非該当のみで直ちに責任を否定することはできない。上司らが過重業務を認識し得たにもかかわらず負担軽減措置を講じなかった場合、注意義務違反が認められる。
問題の所在(論点)
警察官の自殺について、公務災害認定基準(本件記述)の「質的に過重な業務」等の要件を厳格に満たさない場合であっても、国家賠償法1条1項に基づく上司の注意義務違反を認めることができるか。
規範
使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負い、指揮監督権限を有する者はこの義務に従って権限を行使すべきである。この理は都道府県警察の警察官についても同様である。国家賠償法1条1項の責任判定においては、公務災害の認定基準に示された知見を参酌し得るが、同基準の要件に該当しないことをもって直ちに損害賠償責任が否定されるものではない。
重要事実
静岡県警のA警部補は、交番長としての通常業務に加え、連続窃盗事件の捜査、実習生の指導、海外研修の準備、異動に伴う引継作業に従事していた。自殺直前1か月の時間外勤務は112時間を超え、14日間連続勤務を2回行うなど極めて過酷な態様であった。Aは過去のストレス診断で最低評価(E)を受け、これを上司の地域課長に報告していたが、特段の措置は講じられなかった。Aは精神疾患を発症し、平成24年3月に自殺した。
あてはめ
Aは自殺直前、本来の業務に加え複数の負荷の高い業務が重なり、時間外勤務が急増して100時間を超えていた。また、24時間拘束の当直を含む14連勤を繰り返しており、相当程度の疲労・心理的負荷が蓄積していたといえる。これらにより精神疾患を発症し自殺に至ったとの高度の蓋然性が認められる。上司らはAの業務状況を把握し得る立場にあり、かつストレス診断の結果も知っていた。過重業務による精神疾患・自殺の危険性は当時広く知られていたため、上司らは負担軽減措置を講じない限りAが心身の健康を損なうことを予見可能であった。それにもかかわらず具体的な措置を講じなかった点に注意義務違反がある。
結論
被上告人(静岡県)は、Aの上司らが注意義務を怠ったことにより、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。
実務上の射程
公務災害や労災の認定基準は、損害賠償請求における過失や相当因果関係の判断において有力な指針(知見)となるが、法的な義務の有無はあくまで個別具体的な諸般の事情を総合考慮して決せられるべきであることを示した。答案上は、認定基準の数値(100時間等)を絶対視せず、勤務態様の密度や連続性、上司の個別的認知状況を重視して論述する際に活用できる。
事件番号: 平成10(オ)217 / 裁判年月日: 平成12年3月24日 / 結論: その他
一 大手広告代理店に勤務する労働者甲が長時間にわたり残業を行う状態を一年余り継続した後にうつ病にり患し自殺した場合において、甲は、業務を所定の期限までに完了させるべきものとする一般的、包括的な指揮又は命令の下にその遂行に当たっていたため、継続的に長時間にわたる残業を行わざるを得ない状態になっていたものであって、甲の上司…