高校生が、授業中の態度や過去の非行事実につき担任教師から三時間余にわたり応接室に留めおかれて反省を命ぜられたうえ、頭部を数回殴打されるなど違法な懲戒を受け、それを恨んで翌日自殺した場合であつても、右懲戒行為がされるに至つた経緯等とこれに対する生徒の態度等からみて、教師としての相当の注意義務を尽くしたとしても、生徒が右懲戒行為によつて自殺を決意することを予見することが困難な状況であつた判示の事情のもとにおいては、教師の懲戒行為と生徒の自殺との間に相当因果関係はない。
高校教師の違法な懲戒権の行使と生徒の自殺との間の相当因果関係が否定された事例
国家賠償法1条,民法709条
判旨
公務員の職務上の行為による損害については、国又は公共団体が賠償責任を負い、公務員個人は責任を負わない。また、不法行為と自殺との間の相当因果関係は、加害行為の態様や被害者の状況等から、自殺の結果を予見することが困難な場合には否定される。
問題の所在(論点)
1. 公務員の職務上の不法行為について、公務員個人が民法上の賠償責任を負うか。 2. 違法な懲戒行為(体罰等)と生徒の自殺との間に相当因果関係が認められるか。
規範
1. 国家賠償法1条1項が適用される場合、公権力の行使に当たる公務員が職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えたときは、国又は公共団体が賠償責任を負い、公務員個人はその責任を負わない。 2. 不法行為に基づく損害賠償責任における相当因果関係の成否は、加害行為の態様、被害者の反応、経緯等からみて、その行為によって当該結果が発生することを予見することが可能であったか否か(予見可能性)によって判断される。
重要事実
県立高校の担任教諭B1は、生徒Dが授業中に私語をしたこと等を理由に、数時間にわたり応接室に留めて説諭し、さらに平手で頭部を数回殴打する体罰を加えた。Dは帰宅後、B1への恨みを綴った手紙を残し、翌朝自ら命を絶った。Dの両親である上告人らは、B1個人及び福岡県に対し、損害賠償を求めて提訴した。
あてはめ
1. 公務員個人の責任について、判例(最大判昭30.4.19)を維持し、国賠法1条1項の要件を満たす場合には国等が責任を負い、個人は責任を負わないものと解される。したがって、B1個人の責任は否定される。 2. 因果関係について、B1の行為は懲戒権の限界を逸脱した違法なものである。しかし、B1が相当の注意義務を尽くしたとしても、Dが自殺を決意することを予見することは困難な状況であった。加害行為の態様やDの反応等に照らせば、自殺の結果との間に相当因果関係があるとは認められない。
結論
1. 福岡県は違法な懲戒行為による慰謝料等の賠償責任を負うが、B1個人は責任を負わない。 2. 懲戒行為と自殺との間の相当因果関係は否定され、自殺に伴う損害の賠償請求は認められない。
実務上の射程
国賠法1条1項に関する基本判例であり、公務員の個人責任否定の論証として必須。また、不法行為における自殺の因果関係については、予見可能性(相当性)の有無が判断の分水嶺となる。答案では、公務員個人の被告適格の有無を検討する際に本法理を用いる。
事件番号: 昭和52(オ)416 / 裁判年月日: 昭和52年7月19日 / 結論: 棄却
原審の確定した事実関係のもとでは、担当検察官及び検察事務官に被疑者の自殺を予見してこれを防止すべき注意義務はない。