公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行なうについて、故意または過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国がその被害者に対し賠償の責に任ずるのであつて、本件のような事実関係(判決理由参照)のもとにおいては、公務員個人は被害者に対して直接その責任を負うものではない。
国家賠償と賠償責任の負担者
国家賠償法1条,民法709条
判旨
公権力の行使に当たる公務員が職務執行について故意又は過失により違法に他人に損害を加えた場合、国等が賠償責任を負い、公務員個人は直接の責任を負わない。国家賠償法1条1項が適用される場面において、被害者が公務員個人に対して不法行為責任を追及することは認められない。
問題の所在(論点)
公権力の行使にあたる公務員の職務上の行為によって損害を被った被害者は、国家賠償法1条1項に基づき国に対して賠償請求できるだけでなく、公務員個人に対しても民法上の不法行為責任を追及できるか(公務員個人の外部責任の有無)。
規範
公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国がその被害者に対して賠償の責めに任ずるのであり、公務員個人は被害者に対して直接その責任を負うものではない。
重要事実
上告人は、自身が被告人となった有価証券偽造等被告事件の捜査に当たった検察官らを公務員職権濫用罪で告訴した。これに対し、当時検事長の職にあった被上告人が他の検察首脳と共同し、当該告訴事件の処理を故意に遅延させたため、上告人は有罪判決を受けるに至ったと主張。上告人は、被上告人個人の不法行為に基づき、被った財産上および精神上の損害賠償を求めて提訴した。
あてはめ
本件において、被上告人による告訴事件の処理(検察事務)は、国の公権力の行使に当たる公務員の職務執行に該当する。上告人の主張によれば、被上告人は故意に事件処理を遷延させ損害を与えたとされるが、このような公権力行使に伴う損害については、国家賠償法が国の責任を定めている。したがって、仮に違法な損害が生じていたとしても、賠償責任を負うのは国であり、公務員である被上告人個人が直接責任を負うべき法的根拠はない。
結論
公務員個人は被害者に対して直接の責任を負わないため、上告人の被上告人個人に対する請求は棄却される。
実務上の射程
国家賠償法1条1項が適用される事案における「公務員個人の責任否定」の原則を確立した重要判例である。答案上は、公務員個人の賠償責任を問う設問において、本判例を引用して結論を導く。なお、この理は軽過失のみならず故意・重過失の場合にも妥当すると解されている(判例は「故意又は過失」と一律に示しているため)。
事件番号: 昭和37(オ)248 / 裁判年月日: 昭和40年3月5日 / 結論: 棄却
公務員の職務執行に基づく損害については、国家または公共団体がその責任を負い、当該公務員は被害者に対し、その責任を負担しない。