原審の確定した事実関係のもとでは、担当検察官及び検察事務官に被疑者の自殺を予見してこれを防止すべき注意義務はない。
抑留中の被疑者が取調室の窓から飛降り自殺した事故につき担当検察官及び検察事務官に右自殺の予見防止義務がないとされた事例
国家賠償法1条1項,刑訴規則68条
判旨
検察官及び検察事務官が被疑者の自殺を予見し、かつ防止すべき注意義務を負うかは、当時の具体的状況に基づく予見可能性の有無によって判断され、予見可能性が認められない以上、結果回避義務違反も否定される。
問題の所在(論点)
検察官及び検察事務官において、取調べ中の被疑者の自殺を予見し、これを防止・阻止すべき職務上の注意義務(国家賠償法1条1項)が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項の「過失」に関し、公務員が負うべき注意義務(作為・不作為を問わず)の有無は、当該公務員が結果発生を具体的に予見可能であったか、およびその予見に基づき結果を回避すべき義務を負っていたかという観点から判断される。特に身体拘束下における自損行為については、当時の言動や周囲の状況から自殺の具体的な危険性を認識し得たか否かが基準となる。
重要事実
被疑者Dは検察庁において検察官及び検察事務官による取調べを受けていたが、その最中に自殺を図った。上告人(遺族)らは、担当公務員らがDの自殺を予見してこれを防止すべき義務、および現に発生した自殺を阻止すべき義務を怠ったとして、国家賠償を請求した。
あてはめ
本件における事実関係によれば、取調べを担当していた検察官及び検察事務官には、当時のDの言動等からその自殺を予見すべき具体的な事情は認められなかった。また、自殺が突如として行われた状況下において、検察事務官がその結果発生を物理的に阻止できなかったとしても、義務違背があったとはいえない。したがって、具体的予見可能性に基づく注意義務違反を認めることはできない。
結論
担当公務員らに注意義務違反はなく、国賠法1条1項に基づく損害賠償責任は成立しない。
実務上の射程
被疑者の自損行為に対する公務員の責任を問う事案において、抽象的な安全配慮義務ではなく、当該時点での具体的な予見可能性を要件とする判断枠組みを示す。答案上は、当時の予見可能性を基礎づける事実の有無(過去の言動、精神状態、自殺の予兆等)を抽出してあてはめる際の基準として活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)532 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員の職務執行上の行為について、法令の解釈に複数の有力な説があり実務も分かれている状況下で、当該公務員が特定の説に従い誠実に行動した場合には、国家賠償法1条1項の「過失」を否定できる。 第1 事案の概要:債務者が仮処分命令の条件(現状維持)に違反して建物の現状を変更したため、執行吏代理が債務者を…