国の国家公務員に対する安全配慮義務違反を理由として国に対し損害賠償を請求する訴訟においては、原告が、右義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張・立証する責任を負う。
国の国家公務員に対する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求と右義務違反の事実に関する主張・立証責任
民法1条2項,民法415条
判旨
国が国家公務員に対して負担する安全配慮義務に違反したことを理由とする損害賠償請求訴訟において、義務の内容を特定し、かつ義務違反の事実を主張・立証する責任は、原告(公務員側)にある。
問題の所在(論点)
国(自衛隊)の安全配慮義務違反を理由とする国家賠償請求において、具体的な安全配慮義務の内容および義務違反の事実に関する主張・立証責任は、国と原告のいずれが負うべきか。
規範
国家公務員が国に対し、安全配慮義務違反を理由として損害賠償を請求する場合、訴訟上の主張・立証責任の分配は以下の通りとなる。すなわち、国が負担すべき「具体的な安全配慮義務の内容」を特定し、かつこれに「該当する義務違反の事実」が存在することについては、義務違反を主張する原告側が主張・立証責任を負う。
重要事実
自衛隊員である被害者が、任務としてヘリコプターに搭乗し人員・物資の輸送に従事していた際、ヘリコプターが墜落し死亡する事故が発生した。遺族(上告人ら)は、国が機体の整備を完全にする等の安全配慮義務を怠ったとして損害賠償を求めた。原審は、事故原因を特定した上で、国にヘリコプターの性能保持や完全な整備を行う義務があることを認めたが、具体的な義務違反の事実は認められないとして請求を棄却した。これに対し、上告人らは立証責任の分配について不服を申し立て、上告した。
あてはめ
本件において原告側は、国が負うべき具体的な義務として「ヘリコプターの各部部品の性能を保持し機体の整備を完全にする義務」があることを主張した。これに対し裁判所は、当該義務の存在を前提としつつ、事故原因との関係において具体的な義務違反の事実(整備不良等)が認められるかを判断した。その結果、原告側が主張・立証すべき具体的な義務違反の事実の存在を肯認することができないと判断された。これは、安全配慮義務違反の構成要件に該当する事実の主張・立証責任を原告に課す法理に従った適法な判断であるといえる。
結論
安全配慮義務違反の主張・立証責任は原告にあるため、具体的な義務違反の事実が証明されない本件では、国の損害賠償責任は認められない。
実務上の射程
本判決は、安全配慮義務違反を構成要件とする損害賠償請求全般(不法行為・債務不履行)において、義務の特定と違反事実の主張・立証責任を債権者(原告)が負うことを明示したものである。司法試験においては、安全配慮義務の内容を問題文の事実関係からいかに具体的に摘示(特定)できるか、またその違反事実をどう認定するかのプロセスを論じる際の前提として活用する。
事件番号: 昭和48(オ)383 / 裁判年月日: 昭和50年2月25日 / 結論: 破棄差戻
一、国は、国家公務員に対し、その公務遂行のための場所、施設若しくは器具等の設置管理又はその遂行する公務の管理にあたつて、国家公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負つているものと解すべきである。 二、国の安全配慮義務違背を理由とする国家公務員の国に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は、一〇年と解す…