一、国は、国家公務員に対し、その公務遂行のための場所、施設若しくは器具等の設置管理又はその遂行する公務の管理にあたつて、国家公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負つているものと解すべきである。 二、国の安全配慮義務違背を理由とする国家公務員の国に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は、一〇年と解すべきである。
一、国の国家公務員に対する安全配慮義務の有無 二、国の安全配慮義務違背を理由とする国家公務員の国に対する損害賠償請求権の消滅時効期間
民法1条2項,民法167条1項,国家公務員法第3章第6節第3款第3目,会計法30条
判旨
国は、公務員に対し、公務遂行のために設置する場所や施設の管理等にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負う。また、この義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条の5年ではなく、民法167条1項(当時)により10年と解すべきである。
問題の所在(論点)
1. 国は国家公務員に対し、その生命・健康等を保護すべき安全配慮義務を負うか。 2. 安全配慮義務違反に基づく国に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条の5年か、それとも一般民事債権としての10年か。
規範
1. 安全配慮義務の成否:ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として、当事者の一方又は双方が相手方に対し、信義則上、生命・健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負う。この法理は国と公務員の間の関係にも適用される。 2. 消滅時効:会計法30条が5年の短期時効を定めた趣旨は、国の債務を早期に決済するという行政上の便宜にある。これに対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務は、発生が偶発的で多発するものではなく行政上の便宜を考慮する必要がない。また、その目的性質は私人間の損害賠償と異ならないため、民法上の債務不履行による消滅時効(10年)が適用される。
重要事実
自衛隊員であった亡Dは、職務に従事中、自動車事故により死亡した。Dの遺族である上告人らが、国(被上告人)に対し、公務員に対する安全配慮義務違反(債務不履行)に基づき損害賠償を請求した。これに対し国側は、国と公務員の間にはそのような義務は存在しないと主張し、仮に認められるとしても、請求権は会計法30条所定の5年の経過により時効消滅していると抗弁した。
あてはめ
1. 安全配慮義務について:国と公務員は、法令に基づく勤務関係という特別な社会的接触関係にある。公務員が職務専念義務を誠実に履行するためには、国が安全を確保することが不可欠である。したがって、国は公務遂行の場所や施設の管理等において、公務員の生命等を保護する義務を負う。 2. 消滅時効について:本件請求権は、偶発的な事故に基づく損害の公正な填補を目的とする。大量かつ定型的に発生する行政上の公法債権とは異なり、早期決済を要する行政上の便宜は認められない。よって、民法の原則通り10年と解するのが公平の理念に合致する。
結論
国は公務員に対し安全配慮義務を負い、その不履行に基づく損害賠償請求権の時効期間は10年である。したがって、特別権力関係を理由に義務を否定した原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
本判決は「特別な社会的接触の関係」を根拠に、公法上の関係(国と公務員)であっても私法上の安全配慮義務が認められることを確立した。答案上では、雇用契約に準ずる関係(下請企業の労働者と元請企業など)において、契約関係が直接なくても信義則を媒介として安全配慮義務を肯定する際のリーディングケースとして活用する。
事件番号: 昭和54(オ)903 / 裁判年月日: 昭和56年2月16日 / 結論: 棄却
国の国家公務員に対する安全配慮義務違反を理由として国に対し損害賠償を請求する訴訟においては、原告が、右義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張・立証する責任を負う。