国は、陸上自衛隊の自衛官を駐とん地内の動哨勤務に就かせる場合であつても、過激派活動家が武器獲得を目的として各地の駐とん地等に度々侵入し、また、当該駐とん地において、部外者による自衛官の制服等の入手が容易で盗難事故も発生し、部外者にも容易に了知可能な状態のもとで、営門の出入者が制服等により幹部自衛官及びその随従者と見える限り乗車する車両に同駐とん地内使用許可証等の掲示がなくとも身分確認及び車両等の点検を原則的に行わない取扱いがされていたなど判示のような事実関係のもとでは、過激派活動家が銃器等を奪取するため制服等を着用し幹部自衛官等を装つて営門から侵入し動哨勤務中の自衛官の生命、身体に危害を加えることのあるのを予測することができ、営門警衛の最高責任者たる駐とん地司令及びその命を受け警衛勤務者を直接指揮すべき警衛司令において、右掲示のない車両による営門の出入者については制服等により幹部自衛官等と見える者であつても身分確認及び車両等の点検が確実に行われる措置を講じるなどの方法により動哨勤務者に右のような危険が及ぶことのないように配慮すべき義務があるのに、これを怠つたため、制服等を着用し営門から同駐とん地内に侵入した過激派活動家により動哨勤務中の自衛官が刺殺されたときは、国は、右事故につき、安全配慮義務の不履行による損害賠償責任を負うものというべきである。
陸上自衛隊の駐とん地に制服等を着用し幹部自衛官及びその随従者を装つて侵入した過激派活動家により動哨勤務中の自衛官が刺殺された事故につき国に安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償責任があるとされた事例
民法1条2項,国家公務員法第3章第6節第3款第3目公務傷病に対する補償
判旨
国は、自衛隊員に対し、公務遂行のために支配管理する人的・物的条件から生じうる危険を防止し、隊員の生命・健康を保護すべき安全配慮義務を負う。本件では、過激派の侵入と危害の可能性を客観的に予測し得たにもかかわらず、営門での身分確認等の措置を怠った国の安全配慮義務不履行による賠償責任が認められた。
問題の所在(論点)
国が公務員に対して負う安全配慮義務の具体的内容、及び自衛隊員の動哨勤務という本来危険を内包する職務において、第三者の不法行為による加害についてまで国が安全配慮義務を負うか(義務の限界)。
規範
国は、公務員に対し、公務遂行のために支配管理する人的及び物的諸条件から生じうる危険の防止について、信義則上の安全配慮義務を負う。その具体的内容は、公務員の職種・地位、具体的公務の内容、具体的状況等によって定まる。具体的には、自衛隊員を動哨勤務に就かせる際、部外者が不法侵入して危害を及ぼす可能性を客観的に予測し得るときは、営門出入の管理を十全にして侵入を防止し、生命・身体に危険が及ばないよう配慮すべき義務を負う。
重要事実
過激派活動家Mらは、自衛官に変装して陸上自衛隊駐屯地に侵入し武器を奪取しようと計画。当時、過激派による自衛隊施設襲撃が頻発し、上層部からも厳重警備の示達が出ていた。しかし、営門警衛では、外観が幹部自衛官であれば身分証提示を求めない等の緩慢な運用が常態化しており、Mらはこれに乗じて侵入。動哨勤務中のP士長を殺害した。駐屯地司令らは、不審な車両の点検や、外観に拘わらず身分確認を徹底させる等の措置を講じていなかった。
あてはめ
動哨勤務には本来的に危険が内在するが、本件のような外部からの不法侵入者による加害は、職責に不可避的に内在する危険の限界を超えるものである。本件当時、過激派の活動状況や制服の入手容易性から、変装した部外者の侵入と加害の可能性は客観的に予測可能であった。それにもかかわらず、駐屯地司令らは、従来の緩慢な警衛慣行を是認し、厳格な身分確認措置等を命じていなかった。これは安全配慮義務の履行補助者(駐屯地司令等)による義務不履行に当たり、適切な措置を講じていれば事故は防止し得たといえる。
結論
国は、安全配慮義務の不履行により被害を被った者に対し、その損害を賠償すべき義務を負う。
実務上の射程
自衛隊のような危険な職務であっても、国の支配管理下にある施設内での事故については、その危険が職務に不可避的な範囲を超え、かつ客観的予測可能性がある限り、国の安全配慮義務が肯定される。私法上の債務不履行責任の枠組みを公務員関係に適用した重要判例である。
事件番号: 昭和55(オ)579 / 裁判年月日: 昭和58年5月27日 / 結論: 棄却
自衛隊の会計隊長が、同隊の自動車を運転し、隊員輸送の任務を終了した帰途、路面が雨で濡れ、かつ、アスフアルトが付着して極めて滑走し易い状況にあることを看過し、急に加速した等運転者として道路交通法上当然に負うべき通常の注意義務を怠つたことにより右自動車を反対車線に進入させて対向車に衝突させ、その衝撃によつて右自衛隊の自動車…