会社が、夜間においても、その社屋に高価な反物、毛皮等を多数開放的に陳列保管していながら、右社屋の夜間の出入口にのぞき窓やインターホンを設けていないため、宿直員においてくぐり戸を開けてみなければ来訪者が誰であるかを確かめることが困難であり、そのため来訪者が無理に押し入ることができる状態となり、これを利用して盗賊が侵入し宿直員に危害を加えることのあるのを予見しえたにもかかわらず、のぞき窓、インターホン、防犯チェーン等の盗賊防止のための物的設備を施さず、また、宿直員を新入社員一人としないで適宜増員するなどの措置を講じなかつたなど判示のような事実関係がある場合において、一人で宿直を命ぜられた新入社員がその勤務中にくぐり戸から押し入つた盗賊に殺害されたときは、会社は、右事故につき、安全配慮義務に違背したものとして損害賠償責任を負うものというべきである。
宿直勤務中の従業員が盗賊に殺害された事故につき会社に安全配慮義務の違背に基づく損害賠償責任があるとされた事例
民法415条,民法623条
判旨
雇用契約において、使用者は、労働者が労務を提供する過程でその生命・身体等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負う。宿直勤務中に盗賊等による危害の予見可能性がある場合には、物的施設の整備や人員の増員等の措置を講じる義務がある。
問題の所在(論点)
雇用契約上の付随的義務としての安全配慮義務の根拠と、第三者の犯罪行為により労働者が危害を被った場合における同義務の具体的内訳及び債務不履行責任の成否。
規範
雇用契約は双務有償契約であり、労働者は使用者の指示の下で設備・器具を用いて労務を提供するものであるから、使用者は信義則上、労働者が労務提供の過程で生命・身体等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負う。その具体的内容は、職種、労務内容、場所等の具体的状況により異なるが、宿直勤務においては、盗賊等の侵入や危害を防ぐための物的設備の整備、又はそれが困難な場合には人員の増員や安全教育の実施等を含む。
重要事実
呉服卸売会社に勤務する新入社員Dは、高価な商品が開放的に陳列された社屋で、盆休み中に一人で24時間の宿直勤務を命じられた。社屋にはのぞき窓やインターホン、防犯ベル等の設備がなく、外部から強引に押し入られた場合に退去させることが困難な構造であった。また、当時、商品紛失事故が頻発し、不審電話もかかってくるなど、盗難やそれに伴う危害の予見が可能な状況にあった。Dは、侵入した元従業員Fにより、商品の窃取を隠蔽する目的で殺害された。
あてはめ
本件社屋は高価な商品が多数陳列され、夜間は人通りが絶えるため盗賊侵入の危険が高かった。現に紛失事故も発生しており、侵入者が宿直員に発見されれば危害を加えることは十分予見可能であった。にもかかわらず、会社はのぞき窓や防犯ベル等の物的設備を欠き、かつ、経験の浅い新入社員を一人で宿直させ、増員や安全教育も行っていなかった。これらの措置を講じていればDの殺害は未然に防止し得たといえるから、安全配慮義務不履行と損害との間に因果関係も認められる。
結論
上告会社は、安全配慮義務を尽くしていれば事故を防止できたといえるから、当該義務の不履行に基づき、Dの遺族等の被害者に対して損害賠償責任を負う。
実務上の射程
陸上自衛隊事件(最判昭50.2.25)が示した安全配慮義務の法理を、民間企業の宿直勤務中の第三者による犯罪被害の事案に適用し、その具体的な義務内容を詳細に示した判例である。答案上は、本判例を参考に「具体的な危険の予見可能性」と「回避措置の期待可能性」を事案の特殊性(職種・場所・設備の不備等)に即して論述することが肝要である。
事件番号: 昭和55(オ)579 / 裁判年月日: 昭和58年5月27日 / 結論: 棄却
自衛隊の会計隊長が、同隊の自動車を運転し、隊員輸送の任務を終了した帰途、路面が雨で濡れ、かつ、アスフアルトが付着して極めて滑走し易い状況にあることを看過し、急に加速した等運転者として道路交通法上当然に負うべき通常の注意義務を怠つたことにより右自動車を反対車線に進入させて対向車に衝突させ、その衝撃によつて右自衛隊の自動車…