下請企業の労働者が元請企業の作業場で労務の提供をするに当たり、元請企業の管理する設備工具等を用い、事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の従業員とほとんど同じであったなど原判示の事実関係の下においては、元請企業は、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負う。
元請企業につき下請企業の労働者に対する安全配慮義務が認められた事例
民法1条2項,民法415条,民法623条,民法632条
判旨
元請企業は、下請企業の労働者が元請の管理する設備を用い、事実上その指揮監督を受けて稼働するなど特別な社会的接触の関係にある場合、当該労働者に対し信義則上の安全配慮義務を負う。
問題の所在(論点)
直接の雇用関係にない元請企業と下請企業の労働者(社外工)との間において、元請企業は当該労働者に対し、信義則上の安全配慮義務を負うか。
規範
ある者の間に特定の法律関係がなくとも、一方が他方の管理する設備等を利用し、事実上の指揮監督を受けて労務を提供するなど、実態として「特別な社会的接触の関係」に入ったと認められる場合には、信義則上の付随的義務として、当該他方は相手方の生命・健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負う。
重要事実
上告人(元請)の造船所で稼働していた被上告人(下請企業の労働者ら、いわゆる社外工)が、騒音被曝により難聴に罹患した。被上告人らは、元請が管理する設備や工具を用い、事実上元請の指揮監督を受けていた。また、その作業内容は元請の直接の従業員(本工)とほぼ同一であった。
あてはめ
被上告人らは、上告人の設備や工具を使用しており、元請の支配下にある物的環境で作業していた。また、事実上の指揮監督を受けて本工と同様の作業に従事していたことから、実態において上告人と被上告人らの間には緊密な関係が認められる。このような実態は、雇用契約に準ずる「特別な社会的接触の関係」にあるといえ、上告人は信義則上、被上告人らに対し安全配慮義務を負うと解される。
結論
上告人は被上告人らに対し安全配慮義務を負う。したがって、騒音被害を防止しなかったことについて債務不履行責任(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償義務を免れない。
実務上の射程
本判決は、安全配慮義務が契約上の義務に限定されず、実態的な支配・管理関係に基づき発生することを明確にした。司法試験においては、建設現場のJV(共同企業体)や元請・下請関係、派遣先企業と派遣労働者の関係など、直接の雇用関係がない場面での義務の存否を論じる際の必須の判断枠組みとなる。
事件番号: 昭和44(オ)1153 / 裁判年月日: 昭和45年2月12日 / 結論: 棄却
工事の元請負人甲がその従業員乙を工事の責任者として工事現場に詰めさせ、下請負丙の工事施行を指揮監督させ、かつ、丙の被用者で工事の現場責任者である丁に対しても甲の直接の被用者と同様の指揮監督をしていた場合には、甲は丁がその工事の施行中機械の操作をあやまつた過失によりともに作業をしていた戊に損害を与えた行為につき使用者とし…