一 元請負人が下請負人に対し工事上の指図をしもしくはその監督のもとに工事を施行させ、その関係が使用者と被用者との関係またはこれと同視しうる場合であつても、下請負人の被用者の不法行為が元請負人の事業の執行につきなされたものとするためには、直接間接に被用者に対し元請負人の指揮監督関係の及んでいる場合に加害行為がなされたものであることを要する。 二 将来数年間に得べき全利得を損害賠償として一時に支払を受けるため、中間利息の控除にホフマン式計算法を用いる場合には、一年ごとに得べき利得が確定されているかぎり、一年ごとに右計算法を適用して算出した金額を合算する方法によるのが相当である。
一 下請負人の被用者の不法行為につき元請負人が民法第七一五条の責任を負うための要件 二 将来において得べき全利得を損害賠償として一時に支払を受ける場合とホフマン式計算法
民法715条,民法709条
判旨
元請負人が下請負人の使用人による不法行為につき使用者責任を負うためには、当該使用人の行為に直接・間接に元請負人の指揮監督関係が及んでいることを要する。下請工事に付随する行為であっても、外形上のみ下請負人の事業範囲に含まれるにすぎない場合は、元請負人の事業の執行とは認められない。
問題の所在(論点)
元請負人と下請負人の間に実質的な指揮監督関係がある場合において、下請負人がさらに使用する第三者(再被用者)の行為が、元請負人の「事業の執行について」なされたものといえるか。
規範
民法715条1項の使用者責任において、元請負人が下請負人の使用人の不法行為につき責任を負うのは、元請・下請間に実質的な指揮監督関係(使用者と被用者の関係と同視し得る関係)が認められ、かつ、その使用人の行為に直接または間接に元請負人の指揮監督関係が及んでいる場合に限られる。下請工事の付随的行為等であっても、単に外形上下請負人の事業範囲に含まれるにすぎない全ての行為について元請負人が責任を負うものではない。
重要事実
元請負人A1は、下請負人A3に対し道路復旧工事を下請けさせ、連日のように現場で工事の監督を行っていた。A3は、A1名義の登録および屋号表示が残ったままの車両を工事の連絡や材料運搬に使用していたが、これはA1も黙認していた。ある日、A3の依頼を受けた運転手Fが、工事とは直接関係のない私的な用務(第三者から依頼された修理方法の問い合わせ)を済ませた後の帰路で、運転不注意により事故を惹起した。
あてはめ
本件において、A1はA3に対し工事の施工面で強い監督権限を有しており、両者には実質的な指揮監督関係が認められる。しかし、事故を起こしたFの運転行為は、A3の下請事業自体の執行ではなく、これに密接な関係があるために外形上A3の事業範囲に含まれるといえるにすぎない。このような「外形上含まれるにすぎない」行為については、元請負人たるA1の直接・間接の指揮監督が及んでいるとは認められず、A1の事業の執行の範囲内にあるとはいえない。
結論
Fの行為はA1の事業の執行についてなされたものとは認められない。したがって、A1はFの不法行為につき使用者責任を負わない。
実務上の射程
重層的請負関係における使用者責任の範囲を限定した判例である。下請負人本人の行為であれば「外形標準説」により広く責任を認める余地があるが、下請負人の「使用人」の行為にまで元請負人の責任を及ぼすには、元請負人の指揮監督の「直接・間接の及及」という個別具体的な関連性を厳格に求めるべきであることを示唆している。
事件番号: 昭和41(オ)292 / 裁判年月日: 昭和41年10月11日 / 結論: 棄却
工事請負人が工事を下請負させた場合においても、元請負人と下請負人との間に実質的な指揮監督の関係があるときは、元請負人は、民法第七一五条の規定により、下請負人がその工事の施行について他人に加えた損害を賠償する責に任ずるものと解すべきである。